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誕生日の謝辞2026

 おはこんハロチャオ、Najikoです。

 誕生日からはや1ヵ月。たくさんの方にお祝いしていただきまことに感謝いたします。そう、1ヵ月……ずいぶん経ってしまいましたが、いただいたもののリストとお礼をお伝えしたいと思います。

アマゾンの置き配の様子いっぱい届きました。

こちらは去年ともえさんからいただいた猫の水を供給するサーバーのフィルターです。誕生日よりも前に届きました。しらたまちゃん、いつもありがとうございます。うちの猫も喜んでいます。

こちらもしらたまちゃんから。QPコーワヒーリングは耐えられぬとき本当に助かる魔じゃない剤だし、カロリーメイトは普段昼飯食べられないわたくしには非常に助かります。ありがとうございます。

こちらはふじよしさんから。DEACONは瓶のデザインが美しいウィスキーです。いいですよね、ペストマスク。味は、アイラモルト譲りのスモーキーな味わいですが、舌触りがよくハイボールにしても非常に美味です。ありがとうございました。ちなみにまだ全部飲んでません。

こちらはpitoruさんから。いや本当に書いてある通りなんですけどね、外刃に穴が開いてしまったので……でも買うと高いんですよね、シェーバーの刃。なので助かりました。ありがとうございました。

こちらはteruさんから、手首サポーターです。ペンタブ使ってたりすると手首がね、負担がかかるので……これがあると慢性的な痛みが和らぎます。ありがとうございます。

こちらはQuest3の接顔部のシリコンカバーです。るーとんさん、ありがとうございます。これがあるとないとでは肌触りが全然違いますね。むき出しだと汗も吸ってしまいますから、あると非常に助かります。

これはイヤホン。ktさんからいただきました。イヤホンは消耗品ですのでなんぼあってもいいです。ちなみに「ポップコーン」の方は後で届いたのですがメッセージはこちらに入っていました。

こちらはさやタウン作者のさやさんからいただきました。最近よくセイコーマートでワインを買って飲んでいるのでいいなーと思ったんですが、どれもそれぞれ特徴があって美味しかったです。ありがとうございました。

ここからはポップコーンのコーナーです。

こちらはベティさんから。缶バッジの元ももらいました。ありがとうございました。この時点で既に5袋もいただいているわけですが……

さらに1つ。

こちらにも1つ。

そして2つ。

さらに2つ。なんと計11袋にもなりました。これで今年はもうポップコーンに困ることはありません。送り主が不明なものもありましたが、少なくともktさんとちゃかもとさんから届いているのは間違いありません。これはいくらあってもいいので本当に助かります。ありがとうございました。

そして、当日はTizさんにまた誕生会を開催していただきました。こちらのワールドは2022年の誕生会用に作っていただいたワールドなのですが、当時を懐かしみつつ、またたくさんの方に来てお祝いしていただいて本当に嬉しかったです。あれから4年も経つとは信じがたいことですが……4年経ってもこうして集まれるって、本当に素敵なことですよね。こうしてお世話になっている皆さんに、また恩返しができるといいなと思っています。ありがとうございました! 今年もよろしくお願いします。

それとさやタウンにでっかいたまなつちゃんパネルをつけてもらったりもしました。うーん、やっぱりたまなつちゃんがデカいとそれだけで嬉しいですね……いつもお世話になっています。こちらもありがとうございました。

VR無言勢は顔と指と体で喋れ

 前略Najikoです。

前書き

 わたくしは無言勢のVRChatterです。かれこれ6年近くそれでやっています。かつては一部で「人権がない」などと言う人が炎上したりした無言勢という存在。無言である理由は人それぞれで、実家だから、とか、恥ずかしいから、とか、その他諸々、まあ色々ありはするでしょうがそれらはすべからく尊重されるべきだとわたくしは思います。

 近年は、チャットボックスもあり、チルワでは標準的なインフラとしてQVペンも置いてあり、無言勢もかなり意思表示がしやすくなりました。わたくしが始めた2020年はチャットボックスは当然なく、QVペンもあったりなかったりしたのでアバターにペンを仕込んだりいろいろ工夫が必要でした。
 しかしまあ、いかに便利になろうとも、「声でコミュニケーションが取れない」という事態は結局、一緒に会話するフレンドにコミュニケーション上の負担を強いることになるのもまた事実。かといってコミュニケーションを控えてしまえば楽しくないしもったいないですよね。そこで、無言勢でもできるコミュニケーション術が必要になるわけです。

 「ノンバーバルコミュニケーション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。昔「人は見た目が9割」なんて本が有名になったこともありましたが、それにも書かれているように実は「非言語的な」コミュニケーションが結構重要なのです。
 VRChatでは見た目がアバターになるわけですが、周りを見渡してみてください。フルトラで生き生きとアバターの全身を駆使して会話を繰り広げている人が果たしてどれくらいいるでしょうか。意外といません。いたらすごく目立ちます。

 ここにつけこむのです。無言勢がコミュニケーションの情報量を増やすにはこの「ノンバーバル」な分野で勝つしかありません。寝っ転がってフルトラしてるあのお友達より目立つチャンスです。いや、別に争いごとではないので目立つ必要はありませんね。でも会話をする上で便利なので是非覚えてください。

 何も難しいことはありません。やるべきことは2つ。
・表情を使いこなす
・身振り手振りを激しく

 たったこれだけです。では早速わたくしが実践している方法をお伝えしましょう。

顔と指で喋る

 まず、表情についてです。これはあなたがもしMetaのHMDを使っていない場合、ちょっとめんどくさいかも知れません。特にViveコンは慣れが要るようです。が、しかし、アバターのハンドサインに表情が連動していることには変わりありません。そこで、ハンドサインの形と表情が示す感情にシナジーを持たせることで「コミュニケーション」に使いやすい道具にしていきます。

 わたくしは元々旧ロポリこんの表情セットをベースにこれらを使用していますが、こんちゃんはお手手がお饅頭であり、指がありませんでした。しかし、手話で手が使われていることからもわかるように、指は会話に便利なツールであるということを覚えておいてください。

 ハンドサインには
・Idle(入力なし)
・Fist
・Open(待機状態)
・Point
・Peace
・RocknRoll
・Gun
・Thumbs up
の8種類あります。とはいえ、使い分けるのは実質6種類ですので難しいこたぁありません。ハンドサインと表情を使って「喜怒哀楽」を表現するのが大まかな目標です。

では見てみましょう。

 まずIdleとOpenですが、わたくしはここには表情を入れていません。Idleはまあ普通そうなのですが、Openに関しては昔Viveコンでの操作を想定したアバターは笑顔が入っていることが多く、現在も慣例で笑顔が入っていることが多いです。しかし、MetaQuest系のユーザーはOpenに表情を入れなくていいと思います。暴発して制御しにくいだけになるからです。暴発するとコミュニケーションの妨げになるのでフェイルセーフ設計にしています。

 次にFistです。ここにはわたくしは「コメくいてー」顔を入れています。喜怒哀楽で言えば「楽」でしょうか。この顔は地味に汎用性が高く、普通に和んでる感じ、何かに対してまあ納得がいった、という感じのほか腕で額の汗を拭うジェスチャーをすることで「やりきった」みたいな感じを出すこともできます。正直、こぶしを握っていることと表情のシナジーはそれほどないです。ここには怒りの表情がデフォルトで入っていることが多いのですが、Fistはワールド内の物を持っているときや何かを運転操作しているときに頻繁にする手なので、そのときにいちいちキレ散らかしているとどうしても使いにくくなってしまいます。ですので、あえてFistに何も入れないのも一つの手です。あえて笑顔にして笑顔で人を殴ったり物を振りかざしたりするムーブもできますが、コミュニケーションとしてはどうかと思います。

 こちらはPointです。何かを指差しているときに使います。なお、指差し自体はGunでもできるのですがPointで指を差す際にはこのような泣き顔にしています。この泣き顔はなんとなく可愛らしい感じではなく、こんちゃん由来の思い切りコミカルな泣き顔を採用しています。これには明確な理由があり、こうすることで「訴え」が成立しやすくなるからです。泣きながら何かを指差すことで、それに対する抗議や嫌悪の意志を明確に示すことができ、これは無言勢にとってはとても重要な意思表示になります。また、わたくしは泣きながら怒っている感じを同時に出すことで喜怒哀楽の「怒」と「哀」を一度に表現しているのですが、物を持つときはFistやGunを使うことで暴発のリスクを抑えられるため、Pointはこれらの「何らかの理由や対象が明確な時にだけ使いたい感情」を表現するのに適していると考えています。暴発すると今どういう感情かわかりにくくなる怒と哀を圧縮してここに押し込めるのは瞬時の感情表現の正確さを高めるのに有効な手段です。

 次はPeaceです。これは「喜」です。まあ、これは大体デフォルトで笑顔が入っていることがほとんどでしょうし、用途もわかりやすいですよね。写真を撮るとき、何か嬉しいことがあったとき、何かを達成したときなど、サムスティックにタッチするだけで繰り出せるこのハンドサインで瞬時に表現できます。VRCでは楽しい出来事がたくさんあるでしょうから使う機会も多いはずです。そうであってほしい。タッチ一つで簡単に出る表情ですが、笑顔なので暴発したとしても不自然な場面は少ないでしょう。

 みんな大好きRocknRollです。こちらについてはハンドサインと表情にシナジーを求めることはほとんど無意味なため自由枠になりがちですが、押すボタンの組み合わせの関係上暴発もしにくいので、こういった驚きの表情などを入れておくと役立ちます。これもこんちゃん由来の顔なのですが、こんちゃんからわざわざ脈々とこの顔を継承している人はそう多くなく、どこに行ってもウケがよい顔です。ここにはデフォルトでぐるぐる目などの困り顔や変わり種の表情が入っていることが多いのですが、何かを見て驚いたことを表現することが出来ると便利なため、この表情を使う機会は多く、見た目が面白いだけでなくリアクションに非常に役立ちます。

 これはGunです。どういう感情なのかと言われると「楽」の一種ですね。これもかなりよく使う表情で、Pointと同様指差しが可能なハンドサインですがこの顔には「納得」即ち「それな」の意味が含まれています。なるほどね、という「同意」を表現できるこのハンドサインはコミュニケーションにおいて重要な役割を占めています。また、穏やかな表情なので寝ていたりうとうとしたりしていることも表現できます。それと、同じ「楽」でもFistが口を開けているのに対してこちらは口を閉じているので物を食べるときはFistを使うことで対応するといったことができます。また、物を持つときに出やすい顔なので無難な表情の方が安全というのもあります。

体で喋る

 これは要するに身振り手振り、というものですが、なにもフルトラじゃなくても問題ありません。最近はやりのスピキのMADを見たことがある人は分かると思いますが、スピキは日本人にとっては何言ってるかよくわかんない韓国語のボイスしか発しません。にもかかわらず。豊かな表情ともう一つ、コミカルな動きで色々な感情が表現されているのがわかります。

 そうです、まずジャンプです。リアクションを取るとき、意思表示するとき、飛んで跳ねてフレンドに気づいてもらいましょう。現実で飛び跳ねてたら汗だくになるでしょうが、VRCではボタン一つで飛び上がれますから使い得です。まあ、あまりバッタみたいにずっと飛んでるとウザがられるでしょうから、ほどほどにする必要はありますが……

 次に、手です。フルトラで足まで使って感情表現するのはちょっと手間ですが、手ならVR勢は動かすことが出来ます。コントローラーをぶつけないように周りに気をつけて……思い切り手を伸ばしてフレンドに手を振ってみましょう。否定する時は思い切り顔の前で手を振って、面白いなと思ったら「あらやだ奥さん」みたいな手の動きをしてみてください。もうそれだけでとってもチャーミング……なはずです。そんな程度でいいのです。ただ無言勢は元々目立たないので、縮こまってじっとしてると誰にも気づいてもらえません。腕を伸ばした半径にラリアットをかます勢いで振り回しましょう。ただ重ねて言いますが、くれぐれも周りに気をつけて。

 最後に、頭……なのですが、これは割愛してもいいかなと思います。わたくしは個人的には激しくうなずいたり首を横に振ったりすることがあるのですがこれは医学的な観点から首に負担をかける恐れがあり危険なので推奨できません。特に重いHMDをかぶったまま真上を見るのは非常に頸椎への負担になる……はずなので、くれぐれもご注意ください。言いましたからね。首だけは、大事に! いいですね。

あとがき

 まあ、特にないんですが、無言勢のコミュニケーションはそれほど難しいことではないし、無言勢じゃなくてもノンバーバルコミュニケーションを活用するとアバターの「実在性」がぐっと増してきますから、RPに興味がある方も是非取り入れてみてはいかがでしょうか。それでは、VRCのどこかでお会いしましょう。Naijkoでした……

ゲームを作っています

 おは野なじ子です。君は寝たまへ。

 あけましておめでとうございます。とかなんとか言って、もう21日。年が明けてからあっという間です。しかも去年の12月記事を書いていませんでした。せっかく毎年ショバ代を払っているんだから、ちゃんと記事を書かないとね。いやまあ、時間無いんですよ……他にやることがいっぱいあってですね。

 そんなことのうちの一つとして、今GoogleAntigravityを利用してゲームを作っています。

コイツを覚えている人はそう多くないとは思いますが

 こっちなんかもっと覚えてないと思いますが

 とにかく、たまなつちゃんとThe Backroomsを探索したい! と思ったんですね。それがもう2年も3年も前の話なんですけど……

 Antigravityくんは、自然言語で指定した内容についてAIが設計を提案してきて、「ええよ」と言うとそのようにコードを書いてくれるツールです。職場の元Unityエンジニアの人が楽しすぎて笑いが止まらない様子で紹介してくれたので使ってみることにしました。

 言った通りに勝手に作ってくれるわけですから、「ノベルゲーム作って」と言えばノベルゲームを作ってくれるわけです。なんて有能なんでしょうか。わたくしはコードの読み書きが一切できませんが、Antigravityはコードを書くだけではなく動作を自らテストして、挙動に対して修正案を出してもくれるので、こちらは望ましくない挙動や不具合を発見したら「ここがこんな動作してるんですけどこれこれこういう挙動にしてほしい」とか「これをやるとこんな不具合が起きます。調査してください」と言えば調査して「じゃあこうしますけどいいすか」と聞いてくるので「ええよ」と言えばまた実装する。この繰り返しでゲームができていきます。しかもAntigravityは「このフォルダ内のファイルは書き換えていいよ」と頼んだ箇所で直接ファイルを編集してくれるので、AIが出したコードをメモ帳にコピペして……といった工程は不要です。こやつ、できる。

 どうやらAntigravityくんはノベルゲームをCSSで書くのが手っ取り早いと判断したらしく、CSSで書いてくれました。これ最後exeにしてって頼んだら怒ってSSDフォーマットしてきたりしないかな。まあ、いいんじゃないでしょうかね、古き良きブラウザゲーみたいな、ちょっと安っぽい感じの方が気が楽というか……画面サイズ800×600ですからね。大丈夫かこれ。

 最初は背景と、たまなつちゃんを表示してテキストボックスのメッセージを送る機能しかなかったんですが、Antigravityとのやり取りを経てメッセージを1文字ずつ表示したり、オートで送ったり、高速で選択肢までスキップしたり、取得したアイテムを確認したり……

 セーブにロード、ログも確認できますしメッセージスピードを変更したり、タイトルに戻ることもできます。まあ、画面サイズとかはともかくとしてしっかりノベルゲームに最低限必要な機能を兼ね備えた状態まで持ってこられたなと思います。すごいね。

 しかも、コードの読み書きができないわたくしのためにゲーム内テキストのエディタまで別で作ってもらっています。至れり尽くせりか?

 こんな風にタイムライン形式になっています。

 あとはBGMと効果音がないのと、画面効果には乏しいです。たまなつちゃんの立ち絵も1種類しかないので表情差分を作ったりとか、各場面でスチルを用意したりとか……最終的にはソシャゲのストーリー読んでるときの紙芝居のちょっとしょぼいやつくらいの出来栄えにできれば重畳、といった感じですね。完成できるのか?

 あと普通に、こう……ノベルゲームですから、内容は大丈夫なのか、というのはAntigravityの開発力とは関係のない課題だったりするんですけど、スーーーーそうですね……あの、まあ……どうにかこう、たまなつちゃんをよく知ってる人は楽しめて、知らない人でも……「あっ、ふーん……」と思えるくらいの内容には持っていきたいですね……無理かな……無理かもな……いや、なんとかします。なんとか。

 じゃあ、またそのうち進捗でも報告したいと思います。それでは今日は出かけるので……やっぱ全然時間ねぇな……

カードが高すぎる

 おはこんハロチャオ、Najikoです。

 今、「カードファイト!! ヴァンガード」のデッキを組んでいます。が、デッキ構築に金がかかりすぎる。どういうことなのか順を追って説明していきたいと思います。

1.そもそもヴァンガードって?

 2011年に登場したカードゲームです。アニメも何シーズンか経て今もやってます。
 ルールとしては、前列3枚後列3枚の計6枚のカードを展開して殴り合う、というシンプルなもの。前列中央が「ヴァンガード」で、ここにダメージが通ると1点。他は「リアガード」と呼び、前列なら殴れるし後列は「ブースト」を行うことでパワーを前列に加算できます。ダメージ判定は攻撃側のパワーが受ける側のパワーを超えていれば1点。受ける側は手札からカードを切ってガードすることもできます。
 バトルできるのは前列同士で、リアガードは殴り倒されると退却し墓地送りになります。ヴァンガードは先述の通り1点食らいますが、退却することはありません。ダメージが先に6点になった方が負け。
 また、「グレード」の概念があり、ヴァンガードはグレード0から始まり、毎ターン1,2,3と1つずつグレードが高いカードを上に重ねる「ライド」ができます。現在のルールでは毎ターン手札を1枚捨て、現在のグレードより1つ高いグレードのカードにメインデッキとは別の「ライドデッキ」からライドします。
 バトルの際ヴァンガードの攻撃時には「ドライブチェック」としてデッキの上のカードをめくり、手札に加えます。これがヴァンガードの特色で、ここで「トリガーユニット」カードがめくれるとパワーが上がったりダメージが増えたりといった様々な効果を得られます。ダメージを受けた側もデッキの上からカードをめくってダメージゾーンに送るのですが、このときにトリガーが出た場合も受けた側のカードのパワーを上昇させるなどの効果処理が発生します。
 で、流れとしては
ドロー→スタンバイ(前ターン攻撃済みのカードが起き上がる)→ライド→メイン→バトル→エンド
という感じ。遊戯王のようにメイン2とかはありません。
 まあ詳しいことはここに書いてあるんですが
https://cf-vanguard.com/howto/first_guide/
なぜか画像をスライドする形式で読ませてくれます。テキストにしてくれよ。

2.汎用カードが高すぎる(その1)

 そもそもなんでわたくしが記事を書いて嘆いているかというと、カードの単価が高いからです。デッキは50枚+ライドデッキ5枚の計55枚になるのですが、まず構築に必須要件があり、「トリガーユニットを合計16枚入れなければならない」というものなのですが、ここからしてハードルを上げています。
 当然、構築の必須要件のため構築済みデッキを買えばトリガー16枚は入っているのですが、わたくしが組みたいデッキに関係する構築済みデッキがもう売ってません。実はヴァンガードにはもう一つ厳しいデッキの構築要件があり、「同じ国家のカードしか入れられない」というものがあります。国家には現在のルールでは
ドラゴンエンパイア

ダークステイツ

ブラントゲート

ケテルサンクチュアリ

ストイケイア

リリカルモナステリオ

の6つがあるのですが、ちゃーんと6種類の国家それぞれに「クイックスタートデッキ」が存在しており、700円でデッキのカードが揃います。じゃあいいじゃん、と思うかも知れませんがそう、先ほども言いましたがわたくしが欲しいやつだけ売ってないんですよね。信じられるでしょうか。これらの発売は2024年1月で、現在も公式サイトには紹介ページがあります。

https://cf-vanguard.com/products/trial/dz-sd01_06/

現在2025年11月ですから、1年と10か月くらいしか経ってません。しかし、既にどこの通販を見ても販売終了になっており、手に入らないんです。6つの国家のうちたった一つ「リリカルモナステリオ」のデッキが……これは在庫の問題なのでいずれ再入荷するかもしれませんが、これから始めようと思っている人にとっては致命的です。

 何が致命的ってそう、最初に書いた「トリガーユニット」が手に入らないんです。仕方がないので、シングルで買うしかありません。まあでも所詮スタートデッキに入っているトリガーユニットですから単価は大したことないのですが、ここで新たな問題が浮上します。

効果付きのトリガーユニットの値段が高い。

はい。スタートデッキに入ってるのはほとんどが効果がついてないトリガーユニットです。それでもそもそもデッキが組めないより遥かにマシなのでデッキが売ってればひとまずはそれで妥協できるのですが、実際に遊んでるとどう考えても効果がついてるトリガーの方が上位互換なので結局そちらを採用することになります。で、わたくしのようにある程度経験者で、どうせシングルで買いそろえるなら最初から効果付きのトリガーを買った方がいいわけですが……

 わたくしはカードラッシュという通販サイトで見てるので価格は多少前後することがあると思いますが、現在組もうとしているデッキのトリガーユニットのみの合計金額が3490円と見積もられており、既にスタートデッキ5個分くらいになっています。なお、これでも効果付きトリガーを妥協しており、もし妥協していなかった場合1枚50円×3の「前」トリガーを1枚1180円するものに変えることになるため6880円となります。信じられるでしょうか。ヴァンガードは結構昔からこういうカードゲームです。

問題児その1

イラストはかわいいにゃんこなんですけどね……描いてるのはあの初音ミクのパッケージを描いているKEI先生です。

 実はわたくしが組もうとしているデッキは他のカードはそんなに高くありません。わたくしが組みたいデッキの切り札にして核となるカードはこちら。

問題児ではない

 色々効果が書かれていますがざっくり言うと「アルクからアルクにライドすると連続攻撃できるよ」と書いてあります。ヴァンガードではヴァンガードによる連続攻撃効果は非常に強力で、リアガードのカード入れ替えによる更なる連続攻撃と、ソウル(ヴァンガードの下に重ねているカード)からアルクを回収することで毎ターン安定した効果発動ができるという仕掛けになっています。まあそんなことよりほら、アルク、かわいいじゃろ。
 そんなアルクですが1枚80円です。はい。1枚80円のカードが強いのかと言われると、うん……いや……でもヴァンガードによる連続攻撃効果は非常に強力なんですよ!!
 わたくしは旧レギュレーションの頃からアルクのデッキを組んでいたりしたのでヴァンガードをやっているリア友から「アルクリメイクされたよ」と声がかかり、カードを集めることにした……というわけなのですが、ここで少しシングルカードを集める前の話をしたいと思います。

3.カテゴリのカードが集まらない

 せっかくなのでAmazonで随分と新品が安くなっているパックを1箱買ってみることにしました。

リリカルモナステリオ あわてんぼうのクリスマス VG-DZ-LBT02

わたくしが買ったときは1箱4000円でした。本来は1パック400円なので、16パック入っていて4000円というのは相当にお得です。
 先ほど紹介したアルクが収録されているパックですから、まあもしアルクが当たらなかったとしてもアルクに関連するカードやトリガーユニット、その他汎用カードや、アルクデッキでは採用しないけど強力なカードや、特殊なレアリティのカードなどのシングル価格が高額なカードが入っていれば元が取れる可能性もあります。ガチャとしてはかなり悪くない賭けです。その結果……

やりました! アルクが当たりましたよ。かわいいですね。で、他に並んでるカードは何かって? ああ、それはですね……この箱から出てきた「アルクデッキ」に採用する可能性があるカード全てです。

もう一度言いますよ。

この箱から出てきた「アルクデッキ」に採用する可能性があるカード全てです。

ヴァンガードは1パック6枚入っていますから、16パックで96枚のカードが手に入るわけですが、その中のたったの5枚だけでした。というのも、6つある国家の中でも更に細かくテーマが分類されているんですね。「〇〇デッキ」という分類が山ほどあるのです。今回のパックにどれとどれに関連するカードが入っているかはちょっと調べるのがめんどくさい把握してないんですが、少なくともカードラッシュのサイトに「カテゴリ」として記載されているものだけで、

ウィリスタ、カイリ、エルミニア、ルーテシア、ミチュ、シャルモード、シアナ、ラブラドル、クリスレイン、FL∀MMe-G、ヴェール、AbsoluteZero、コーラル、キョウカ、リルファ、メディエール、ハーゼリット、リシアフェール、アルティサリア

と実に19種類ものカテゴリが存在しています。中には「キーワード能力」がかぶっているものや、名称としての所属がかぶっているものもありますが大抵は「ヴァンガード名に〇〇を含む」という固有名称サポートを持っているため、決してこれは水増しされた数字ではありません。しかも、カードラッシュのカテゴリにはマイナーなものが含まれていないのか、わたくしが組もうとしている「アルク」や後ほどちょっと紹介する「フェネル」といった草の根レベルのカテゴリも含めるとさらにカテゴリの数は膨れ上がります。

 こうして見ると96枚のうち5枚も関連カードが入っていたのはむしろラッキーといえる有様ですが、当然わたくしのように単一のカテゴリを狙っている人間には(高額カードガチャとしての側面を除けば)旨味が少なすぎるため、これもまたデッキ構築を難しくしている一因と言えます(たくさんのお友達とたくさんの箱を買ってシェアしろってことなんでしょうけどお友達はスタートデッキにも付属していません)

 ちなみに高額カードは当たりませんでした。いや、厳密に言えばシングルで買えば確実に4000円を大幅に超えるような内容にはなったんですが、買取に出したりメルカリに売って元を取れるかと言われると……という微妙なラインです。

4.汎用カードが高すぎる(その2)

  デッキ構築において重要なのはデッキの安定性を担保するカードです。遊戯王では手札誘発がデッキの3割くらいの枚数を占めがちですが、ヴァンガードにも「どのカテゴリでも」あるいは「複数のカテゴリを跨いで」活躍するカードが存在しています。そしてそうしたカードの値段はバカみたいに高くなりがちです。

今回参考にしているデッキレシピは2つあり、片方は公式サイトで「アルクデッキ」として紹介されているものです。

公式のデッキ

もう片方はブシロード公式のDECK LOGというサイトに登録されている「アルク」を含むデッキからGoogle検索で適当に出てきたものをピックアップしました。登録されているデッキは数多くありますがアルクはサポートカードが多くないのでアルク関連以外は実質どの高額カードを採用するかの違いとなっています。

有志が作った「アルク」デッキ

ちなみになぜか、有志が作ったデッキの方が公式のデッキより今回のパックに収録されていたカードを多く採用しています。公式のデッキの方はアルクと同じパックからは手に入らない高額カードを多数採用しているようですが一体どういうことなんでしょうか。

わたくしは有志が作ったデッキのほうがまだ幾分安く済むのでそちらを主に参考にしていますが、共通して入っているカードにはやはり高額なものが多くあります。基本的にわたくしはそれらのカードは採用候補に入れていませんが、まともに組むとこんなにかかるぞ、という意味で紹介します。

まずはこれ

問題児とも言えない

 いきなりそもそもリリカルモナステリオのカードでもないんですが、こちらは汎用枠。全デッキに採用できる「守護者」である代わりに1枚しか入れられない。デュエマで言うところのハヤブサマルみたいなカードです。本来はスタートデッキに入ってるらしいんですがこの絵柄のやつは1480円とかするのでこんなもん買ってられません。
 そもそも攻撃を完全に防ぐ通称「完全ガード」の「守護者」は国家ごとに何種類か存在しており、それらから4枚入れれば済みます。このカードの利点はユニットではなくブリッツオーダー(要するにモンスターじゃなく魔法)なので「守護者」をガーディアンサークルに呼べない状況でも使えることと、相手がトリプルドライブ(攻撃時のドライブチェックを3回する)場合ノーコストになるという点です。正直入れ得なカードであり、あった方が絶対にいいことは間違いないのですが勝ち筋に繋がるわけではなく、一時の遊戯王の大嵐禁止後のハーピィの羽箒のような懲罰的な出費と言え、コスパが悪いです。なんだったら羽箒の方が捲りに使えて勝ち筋に繋がる分マシと言えます。こんなに高くないし。

お次はこれ

問題児2

 いろいろ書いてありますが前半の効果で「マーメイド」をサーチできます。要するに「アルクからアルクにライドしたい」状況で、アルクを手札に引き入れられる明確な有用性のあるカードだということです。しかしこの人、リリカルモナステリオしか入ってないエキスパンションには収録されておらず(要するに再録されてない)その割に「マーメイド」全般で使える効果を持っているせいで価格が吊り上がり、最低でも800円台後半で、公式デッキでも有志のデッキでも迷わず4枚採用されています。
 正直欲しいのですが、高すぎます。なんでアルクを引き入れるためだけのカードにアルクの十倍以上の金を出さなきゃいけないんでしょうか。とにかく高すぎるので不採用です。ちなみに代替として使えるカードはありません。泣き寝入りとなります。

はい次。

問題児3

 詳しい説明は省きますが要するにリソース補助のカードです。墓地効果もあります。はい、両方のレシピに4積みですがこちらも1枚1000円くらいします。こちらはアルクと同じパックで登場してはいるんですがわたくしは入手できなかったのでもうダメです。これもあったら絶対強いんですが高すぎるので不採用です。ちなみに代替とは言えないんですが同じグレード1からは

「アルク」を回収する効果を持つこのカードの枚数を増やすことで多少気休めになります。なおこのセレイアちゃん、数少ない「アルク」サポートでアルクと同じパックに収録されているにもかかわらず公式のデッキレシピで1枚も採用されていません。ふざけているのか? ちなみにこのカードは1枚80円です。

では次。

謎のケモノ

 公式の方のレシピで採用されているほか、有志のデッキもいくつか漁ってみると採用されていることが多いカードです。ヴァンガードと同名のカードを墓地から回収できるためアルクとの相性は良いのですが、こいつは1枚2980円します。しかもアルクと同じパックには収録されていません。帰ってくれ。

では次。

問題児4

 こちらも公式レシピでの採用。有志のレシピでも時折採用されている模様です。単純に攻撃性能が高いマーメイドです。確実にデッキパワーを高めるカードで、実はアルクと同じパックに入っているんですが、1枚1400円くらいします。公式では4枚採用。勘弁してくれ。本当は是非起用したいのですが不採用です。

あとはですね……

問題児ではない

 名前が超強そう。「オクタヴィア」です。とにかく攻撃性能が高く、かつ一度きりながらドローとセルフバウンス効果を持つ強力なカードです。値段は780円。高いカードではあるのですが、このカードは「エースユニット」と呼ばれ、ラッシュデュエルにおけるレジェンドと同じような扱いのカードです。デッキ全体で1枚しか入れられないということで、1枚しか買う必要がなくて済む上にアルクの効果とも噛み合うマーメイドで、上振れた際の勝ち筋に繋がるカードのためこちらは採用。上に挙げているようなカードはともかく、これくらいはなんとか採用してあげないとさすがにリーサルが弱すぎます。アルクと同時集録はされていません。また、公式では不採用のようです。なんで?

 ご覧いただいた通り汎用カードはバカみたいに高いのでほとんど採用できないのですが、ここでおまけとしてアルクの数少ないお友達をせっかくなので紹介しておきます。先ほど紹介したもちもちマーメイドのセレイアちゃん以外には……

アルクとはどういう関係なの?

 はい、このマーメイド條澤広のような少女は攻防一体の効果に加え、墓地効果でアルクをサーチできます。派手さはないですが腐ることがなく、ガードにも使えるし焼かれても仕事ができる敏腕マーメイドです。見た感じクリスマスの「善夜祭」の準備をしているような雰囲気ですがアルクとお友達なのかどうかは謎です。アルクはクリスマス関係ないし。ちなみに1枚80円です。

最後にこの人。

でかい

 アルクの効果で登場した場合高火力になる効果と、ドロー効果を持っています。このカードは明確な勝ち筋であり、アルクと同時に採用しない理由がありません。でも1枚80円です。

5.総額

 はい、シングル購入分は占めて7,070円となります。+送料。高い!!!! 信じられないことにこのうち半分くらいがトリガーユニットです。今回は組むデッキがアルクなので関連カードが安く済んでいますが、これでもしデッキの核となるカードが1枚2000円とか3000円するカードで、関連カードも軒並み高額で汎用カードもしっかり揃えて、となるとヴァンガードのデッキは普通にSwitch2買えるくらいの値段になってもおかしくはありません。誰ができんねんそんなゲーム。遊戯王みたくしろとまでは言わないですが、せめて需要の高いカードの再録くらいしたらどうなんでしょうかね……今回はありませんでしたが、普通に雑誌付属のカードが暴騰しっぱなしの必須カード、とかもありますからね。本当に売る気あるんだろうか。
 ちなみにわたくしは札幌のヨドバシとビックカメラでヴァンガードの新品パックを探した際、売ってませんでした。デッキもです。そう、ヴァンガードは前から徐々に取り扱う店舗が減っていっていたのですが最近は新しいカードゲームに押されてさらに見かけなくなり、高いとか安い以前にカードを入手するのも難しい状態になってきています。バトスピやゼクス、果てはウィクロスやリセまで新品のパックが売っている中ヴァンガードが一つもないのは流石に……ショックでしたが、まあ、仕方ありません。

おまけ

 これが「フェネル」です。狐ではありません。フェネックです。

 なんだろう……なんか、すごくどっかで会ったことあるような気がします。ちなみに、公式設定ではツンツンしてて気が強い子らしいです。そうか……ありがとう。

 以上です。ちなみになんでデッキ組もうとしてるかと言うと12月にリア友と集まるかも知れないからです。使いたい……アルクのデッキを……余談ですが、アルクのイラストを描いてるのはブシロードの広報でおなじみの「カードゲームしよ子」の漫画を描いている西あすか先生です。かわいいでしょ。

薄幸天使と魔法(じゃない)少女

 その日、たまなつは河原の芝生の上に寝っ転がって空を見つめていた。雲一つない青空は綺麗で、平穏で、少し退屈だ。空が落ちてくるかもしれないと憂うことを何と言うんだったか。そんなことを考えているうちに眠くなって、うとうとしていた。
 そのとき、空が落ちてきた。
 「あらぁー、ごめんねー」
そう言われ、たまなつはわけもわからずじたばた暴れている。
 「重い!!」
たまなつがそう叫ぶと落ちてきた空はようやく体をどけて、
 「結構失礼ね。まあ私の体が大きいのは認めるけど……ふふ、この翼を使わないと飛べないっていうのはどうにも慣れなくて……あなたに会いに来たのに、落っこちちゃったのよ」
と話した。彼女は大柄なハーピィの女性、ミルヌーヌだった。服も翼も、美しい空色をしている彼女は飛んでいる最中に河原で転寝しているたまなつの近くに着地しようとしてボディプレスを繰り出してしまったというわけだ。
 「でもほら、ケガしなくて済んだでしょ」
ミルヌーヌはそう言うと、ちょうどクッションになった大きな胸を自分の翼でてしてし叩いていたが、たまなつは渋い顔をしていた。
 「あなた誰? 何か用?」
たまなつがそう言うとミルヌーヌは面食らって、
 「ああ、そうだったわ。初めましてだったの忘れてたわね。私はミルヌーヌ。幸せの青い鳥よ」
とにこにこしながら自己紹介をした。変わった名前だったため、たまなつはその響きを記憶していた。そう、それは確か……
 「ネモフィラちゃんが言ってたママみたいなでっかい鳥の人ってあなたのこと?」
たまなつがそう尋ねると、ミルヌーヌは嬉しそうに
 「なんだ、ネモフィラが私のこと話してたのね。そうよ。あの子、ヒトの世界に顔を出してる割には世間知らずだったから……最近うちで面倒見てあげてるの。これでちょっとは信用してもらえるかしら?」
と話した。たまなつは、まあそれならいいか……とミルヌーヌを信用することにした。

 「幸せの青い鳥って、なに」
たまなつは今や自分と横に並んで芝生に寝っ転がっているでっかい青い鳥に語りかけた。
 「知らないの? 本はよく読んだ方がいいわよ」
ミルヌーヌはそう言うと、
 「まあ、そうね……とにかく青い鳥は幸せの象徴なのよ。それが頼まなくても自分のもとにやってくるなんて、ラッキーだと思わない?」
と続けた。空から落っこちてきた大柄な女性にのしかかられることがラッキーだと思うのは品のないクラスメートの男子たちくらいじゃないだろうか、とたまなつは思っていたが、まあそれはそれとして、ミルヌーヌが本当に幸せの象徴なのであればラッキーなのかも……とも思った。
 「じゃあ私、これから幸せになれるの?」
とたまなつは尋ねた。ミルヌーヌは、
 「ええ、もちろん。ただ……私はあなたにとって何が幸せなのかは知らないのよね。あなたは幸せっていうのはどんなものだと思う?」
と尋ねてきた。たまなつは大して考えもせず、
 「家族みんなで仲良く暮らすことかな」
と答えた。ミルヌーヌはまたにこにこしながら、
 「あらステキね。あなたいい子じゃない。でも……確か、あなたよくカリンちゃんに怒られてるんだったわよね? 怒られても、幸せだと思う?」
と尋ねてきた。たまなつは、それはもちろんそうだ、と答えたいところだったが、できれば怒られない方が幸せなのかな……とも思い、少し悩んだ。
 「それに、あなたはその辺の人間より強いから気にならないだろうけど、世の中には悪い人もいるし、そんな人たちのせいで自分や周りの人が嫌な目に遭うことだってあるでしょ? それでも幸せ?」
と、ミルヌーヌはさらにそう尋ねてきた。たまなつは少し考えて、
 「そう言われると、幸せって自分だけのものじゃないのかも……みんな、全部がよくならないと本当の幸せじゃないのかな……」
と呟いた。ミルヌーヌはスッと立ち上がり、
 「ふふ、どうかしらね。まあ、ここで答えが出るとは思ってないわ。言いたいことはその時々で変わるかも知れないし、たくさん考えたからっていい答えが出るとも限らないし……でもね、そういう疑問を心の中に持ってることが大事なのよ。だからまあ、今日のところはそんな機会を私に与えてもらえてラッキーだと思ってちょうだい。じゃあね」
と言って、大きな翼を振って別れの挨拶をし、徒歩で去って行った。そのときたまなつは、歩いて帰るならわざわざ飛んで来て人の上に落ちてこないでほしいな、とだけ思っていた。

 それから数日が経ち、たまなつは「幸せとは何か」などという大きな命題のことはほとんど忘れていた。ただ最近、何か妙だな、という感覚があった。
 「なんか最近風邪でも流行ってるのかしらね」
カリンが言った。ここはたまなつたちが通う学校の教室。朝の会では今日も何人かクラスメートが欠席になったと連絡があった。
 「そうかなぁ」
と、教室の端で立ってカリンと会話していたたまなつが答えようとしたとき、クラスの女子が一人カリンにぶつかってきた。カリンはすかさず、
 「ちょっと、痛いわね!!」
と、ぶつかってきた女子の胸ぐらをつかんだ。たまなつはその場面を表情一つ変えずに眺めていたが、それもそのはず。ぶつかってきた女子は普段からあまりカリンにいい顔をしておらず、実は裏で嫌がらせをしているのではという噂さえあるほどだった。カリンもそんな彼女をなんとなくよく思っていなかった。彼女は人間で、どう足掻いても力でカリンに勝てないから直接絡んではこなかったのだ。それが急にぶつかってきたんだから、宣戦布告と取られても仕方ない、とたまなつは思っていた。しかし、その女子は
 「ああっ、ごめんなさい! 大丈夫?」
と言った。カリンはそれを聞いて、
 「え、いや……まあ、うん……」
と、なんとなくばつが悪そうに手を離し、少し頭をかきながら言った。たまなつはその光景に面食らった。あの女子の口ぶりはわざとぶつかってきたときのそれではない。しかも、カリンに対する敵意が何一つ感じられない謝罪だった。なんだったらカリン自身が、そんな彼女に先に手を出したことを恥じているように見えた。
 「本当にごめんね。あ、そうだ。カリンちゃんにもこれ渡しておくね。よかったら読んでおいて!」
彼女はそう言って1枚のプリントをカリンに渡すと、自分の席へと去って行った。たまなつがそのプリントを覗き込むと、そこにはボランティア募集のお知らせが書かれていた。
 「当サークル『フォルトゥナの輪』ではボランティアに参加していただける方をいつも募集しています。皆さんも慈善活動を通じてヒトの幸福の時間を過ごしましょう! 今回は町を歩いてゴミ拾いをしたいと思います。参加申し込みはこちらのQRコードから! 日時は……」

 放課後、たまなつはカリンと一緒に帰り道を歩いていた。
 「カリンちゃん、朝のボランティアの紙まだ持ってる?」
とたまなつが尋ねると、
 「持ってるけど、何よ。アンタ行きたいの? えーと……ほら」
と言われ、カバンから出したプリントを渡された。たまなつはボランティアには特に興味がなかったのだが、なんとなく違和感を感じていた。
 「この紙くれたあの子、カリンちゃんのことよく乱暴だって言ってたからいつか締め上げてやろうと思ってたんだけど……今日は全然いい人みたいだったから、なんかヘンだなって」
とたまなつが言うと、カリンは嫌そうな顔をして
 「ちょっと、余計なことで暴力沙汰起こそうとしてるんじゃないわよ……いやまあ、今回は私が言えた義理でもないけど。ただアンタの言いたいことは分かるわよ。アイツ、絶対にボランティアなんて行くような性格してなかったとは思うわ」
と言った。そう言われると妙に気になってきたたまなつは、いっそのことボランティアに参加してみることにした。

 日曜日のことだった。町の小さな公園に、朝の8時から集合する。夏休みのラジオ体操……にしては少し遅いが、天気も良くさわやかな朝でたまなつは思いのほかわくわくしていた。
 「さあ、いい時間ではないでしょうか。おはようございます。『フォルトゥナの輪』代表のサナティアです。皆さん今日はお集まりいただきありがとうございます。これからみんなで手分けして、町のゴミ拾いをしていきますから、頑張っていきましょうね!」
そう挨拶し号令をかけたのは、短い金髪にTシャツと長ズボン、長靴を履いてゴム手袋をして火ばさみとゴミ袋を携えた、このボランティアサークルのリーダーのサナティアだった。どんな人かと思っていたが、存外素朴な風貌にたまなつは拍子抜けした。今日はそれほど大人数は集まっておらず、10人くらいの人員が2グループに分かれて活動することになった。たまなつはサナティアについていくことにしたが、そちらのグループにはカリンにプリントを渡してきたクラスメートも参加していた。
 「たまなつちゃん、来てたのね。カリンちゃんにだけ話しかけちゃってごめんね」
彼女が話しかけてきた。
 「いいのいいの、それにどうせカリンちゃん休日は朝ぐっすり寝てて来られないから……」
そんな話をしていると、人気のない日曜の朝の商店街を歩きながら先頭で一番積極的にゴミを拾っていたサナティアが急に振り返り、
 「お友達ですか? よいですね、こうして新しい参加者の方が来て下さるのはいつも本当にうれしいです」
と言った。するとクラスメートはにっこりと笑い、
 「先輩、一人でも新しい子が来るといつも大はしゃぎですよね」
と話した。するとサナティアは少し照れくさそうに、
 「一人でも多くの方に活動が広まることが私の一番の望みですから、当然喜んでしまうのです。あなたが初めて参加してくれた日のこともよく覚えていますよ」
と言い、さらに、
 「ところであなたがたまなつさんですね。ほんの少しですが噂は聞いていました。先ほども言った通り我々の活動に参加してくださったのはとても嬉しく思いますし、特に在校生からの新しい参加者は多ければ多いほど活動が広まりますからお友達にもぜひ我々のことを教えていただけるとありがたい限りです。あ、楽しんで参加していただくことが一番ですから今日はリラックスしてのんびり参加してくださいね」
と少し早口で話しかけてきた。その目は自分を見ているはずなのだが、黄金色の美しい瞳は何故かもっと遠くの方を見ているように感じられ、不思議な感覚に陥る。
 「は、はい……」
たまなつは少し恐縮していた。

 その日のボランティア活動は一時間半ほどで終わった。たまなつが気にしていた例のクラスメートも、不自然な点は一もつなく、ただ善良な市民として活動に参加していた。人に嫌がらせをするような陰険さは微塵も見えず、まるで最初からこのような活動が生きがいであったかのように穏やかで、さわやかで、とにかく、そう、幸せそうに見えた。
 「今日はお集まりいただき本当にありがとうございました。ほら見てください、こんなに……うーん、思ったほどゴミは集まりませんでしたね。でもそれは最初から町が綺麗だということですから特に喜ぶべきことだと思います! 次回の活動にもぜひ参加していただけると幸いです。私はこの『フォルトゥナの輪』をもっともっと広げることで、私が、いえ、我々がヒトの幸福に近づくことができると信じていますから。それでは皆さん、どうか気をつけてお帰りくださいね」
サナティアがそう挨拶すると、集まった人々は各々帰って行った。いざ参加してみるとあっけないものだったなぁ、と思いながらたまなつも帰ろうとしたとき、
 「たまなつさん」
と、サナティアに呼び止められた。
 「あ、はい……」
たまなつはさっさと帰る気でいたので呼び止められて少し驚いた。
 「今日の参加者は多くはありませんでしたが、その中であなたはたった一人、初めて活動に参加してくださった方です。初めて参加していただいた方にはプレゼントをお渡ししているんです。はい、これをどうぞ」
と何かを手渡してきた。それはアクリルの中にカードのようなものが入った小さなキーホルダーだった。カードには、舵輪のような輪の絵が描かれている。
 「あんまりささやかですから、わざわざ呼び止めてお渡しするのも恥ずかしいんですが、これは私が手作りしている幸運のアクセサリーなんですよ。キーホルダーなので、何かにつけてもらってももちろんいいですが、これを受け取った方たちの間では……枕元に置いて寝るといい夢が見られるなんて噂もあるんです。そんな風にこれをよいものとして捉えていただけると、わざわざ作った甲斐がありますし私もヒトの幸福に寄与できているようでとっても嬉しいです。大したものではないのですが、よければ大事にしてくださいね」
サナティアは相変わらずじっとたまなつの目を見ながら少し早口でそう言うと、それ以上は特に話すこともなく去って行った。たまなつはひとしきりキーホルダーを見つめた後、パーカーのポケットに突っ込んでそのまま家に帰ったのだった。

 「ねえ、ラスクちゃん、これ見てよ」
あれからさらに数日、たまなつは学校から家に帰ってひとしきりゴロゴロした後、この前参加したボランティアのお知らせがカバンの底の方でしわくちゃになっているであろうことを思い出し、引っ張り出して夕食前に帰宅したラスクに見せた。ラスクは制服のまま、ソファに座っているたまなつの横に腰かけてプリントを手に取った。彼女は以前はとあるマンションに住んでいたのだが、引っ越すことにしたため新居が見つかるまでたまなつたちの家に居候していた。ラスクは特に部活動をしているわけではないが、今日は放課後なかなか家に帰ってこなかった。彼女はたまなつが渡したプリントを見るとニヤっと口角を上げ、
 「おお、たまなつちゃんさすがだね。今日はさ、このボランティアについていろいろ情報を集めていたんだよ。いやぁー、これはなかなか面白い案件だよ。君に教えてあげたくてうずうずしてたんだ。いや、教えない方がいいのかな、絶対首突っ込むもんね、君ってやつは……」
と半分もったいぶったような、半分本気で心配するような口ぶりで言った。たまなつは首を突っ込むも何も既に参加していたので
 「私この前このボランティア行ってきたんだけど……」
と言った。すると、
 「なんだって? 君ってものぐさに見えて変なところアグレッシブだよね……まあいいや。ならもちろんここに書いてあるサナティアって人にも会ったでしょ」
ラスクが指さした名前を見てたまなつは
 「会ったよ。なんか、不思議な人だったかも……」
と答えた。どちらかといえばボキャブラリに乏しいたまなつから見ても、サナティアの口調や言い回しはどこか独特だと感じていた。
 「実は、このサナティアって子は結構最近うちの学校に転入して来たばかりらしいんだ。学年も私達の一つ上だし、今まで姿も見たことがなかったとしても不思議じゃない。こんな小さな島の学校に急に人が転入して来ただけでもなかなかのニュースなんだけど、本題はここからだ。君も知っての通り、この子はボランティアサークル『フォルトゥナの輪』のリーダーをやってて、在校生を中心に勧誘活動をして定期的にこうやってゴミ拾いとか掃除とか、世のため人のためになることをやっている」
ラスクがそう言うとたまなつは、
 「うん。なんか、すごく真面目に頑張ってる感じだったよ。いいことだと思うけど……」
と言った。ラスクは、その言葉を待っていたとばかりに満面の笑みを浮かべ、
 「そうだよね! 誰が見たってこんな活動いいに決まってる。でも面白いのはその後なんだ。このプリントには書いてないけど……ボランティア活動のあと、初めて参加した人にはあるものを渡しているらしい。君もきっともらっただろ。幸運のアクセサリをさ」
たまなつはそれを聞いて、この前もらったキーホルダーが部屋に脱ぎ散らかしたパーカーのポケットに入りっぱなしだということに気づいた。
 「おや? その顔はまさか、失くしたりしてないよね? それをさ、枕元に置くと……望み通りの夢を見られるんだって。どう? すごいと思わない?」
ラスクは嬉々として話したが、たまなつはその話をサナティア本人からも聞いていたし、そもそもあまり信じていなかった。
 「それ、サナティアさん本人が言ってたよ……キーホルダーを受け取った人たちの中でそういう噂があるって」
たまなつがそう言うと、ラスクは驚いて
 「なんだって!? 本人が言ってたの……それじゃあ私が集めてきた情報、全部もう君が知ってることだったじゃないか……はぁ、負けたよ。君のアグレッシブさにはさ」
と話した。たまなつは少し気の毒に思いながら、
 「そうやって楽しい夢を見たい人たちを集めてボランティアサークルを大きくしていってるってことなのかな?」
と尋ねた。するとラスクは顎に手を当てて少し神妙な面持ちになり、
 「うーん、まあ……そうだね。そのはずなんだ。そうでもなきゃ、私が調べた限りでは学生が始めたボランティアにしては規模が大きくなりすぎてるからね……」
と話した。たまなつはというと、もう
 「そうなんだ……」
と、だけ答え、この話にはあまり興味がなさそうな感じになっていた。ラスクは予想通りというか、でも呆れたというか、そんな顔をして
 「あーあ、君はどっちかというと魔法少女ミラクル☆ミルクちゃんが明日どんな怪人とバトルするか、とか、そっちの情報の方が欲しいんだろうなぁ」
と言った。たまなつはそれを聞いて、
 「え、もしかしてラスクちゃん知ってるの!?」
と食い気味に尋ねたが、ラスクは首を横に振って、
 「いやぁ、残念だけど私はそっちの情報は集めてないんだ。魔法少女の組織自体がちょっと闇が深そうすぎておっかないもんね。正直ミルクちゃんのことはいつも心配してるよ……まあ、気になるなら本人に聞いてみたらいいよ。安全確保のためってことなら教えてくれるんじゃない?」
と言った。たまなつが拍子抜けして、
 「なーんだ、つまんないの」
と言うと、ラスクはというと
 「それで、情報を教えてあげた私に何か言うことはないのかい?」
と尋ねた。それでようやくたまなつが
 「うーん……新しい情報はなかった気がするけど」
と答えると、ラスクはおもむろに後ろからたまなつの猫耳と髪をもみくちゃにしてきた。

 その日の夜、たまなつは例のキーホルダーを枕元に置いて寝てみることにした。それが入っていた、その辺に投げっぱなしだったパーカーもちゃんと洗濯物カゴに入れた。ママに怒られないよう、そっと底の方に隠しながらだが。正直たまなつはあまり夢の話を信じていなかった。大体、枕元に置けば夢が見られるのであれば、今まで同じ部屋の中にほったらかしにしてあったんだから少しくらい同様の効果があってもよかったんじゃないか、などと考えていた。それで、いざ目を瞑ると特にそわそわして眠れないなどということもなく、たまなつはいつも通りあっさりと眠りに落ちた。
 翌朝たまなつは普通に目が覚めた。何の夢を見たかなど全然覚えていなかった。少々ガッカリしながらも、まあ期待はしていなかったからな……と思いながら、それでも何か夢に見た内容はないか頑張って思い出そうとしつつ、いつも通り部屋のカーテンを開けると眩しい朝日が目に入ってきた。清々しい青空の、きっと誰が見てもいい朝だ。少し伸びをして、これまたいつも通り洗面所に顔を洗いに行く。
 「おはよう」
先に洗面所にいたカリンにたまなつは挨拶をした。
 「ん、おはよ」
カリンは普通に挨拶を返してきた。
 それから、朝食を食べる。当番制で、今日はあまなつが準備していた。ベーコンエッグにトーストの組み合わせがたまなつにとって「当たり」のメニューだ。
 「アンタ本当にベーコンエッグ好きよね」
そんな当たりのメニューに喜んでいるたまなつにカリンが話しかけてきた。
 「うん。朝ご飯はこれかツナ缶のときが最高だね」
とたまなつは口いっぱいに目玉焼きを頬張りながら言った。
 「たまなつちゃん、飲み込んでからしゃべるのよ」
ママらしくあまなつが話しかける。たまなつはにこにこしながら頷いた。
 「そういえば、今日は休みだしアンタが行きたがってた海にでも行かない?」
カリンがトーストをちぎりながら提案した。たまなつは少し驚き、
 「え、カリンちゃん海行くと日焼けするし髪が傷むからイヤって言ってたのに……それにカリンちゃん、休みの日に寝坊しないなんて、珍しいね」
と、いつも通り余計な一言を添えて答えた。
 「何よ、人をねぼすけみたいに言って……それに姉さんも乗り気だったから気が変わっただけよ」
カリンは穏やかな表情でそう話した。
 「そう?」
たまなつはそう答えたが、あっけに取られていた。いつもなら余計なことを言うとすぐ怒るカリンがこんな穏やかな表情をしているなんて。おかしいよね、とあまなつの方に目配せをしたがあまなつもまた穏やかな笑みを浮かべており、何も違和感を感じていないようだった。
 「海、いいよね。みんなで楽しみましょう」
急にそう話したのは、たまなつと同じくもみあげが横にはねた長い白い髪と、猫の耳と尻尾を持つ小柄な少女、しらたまだった。色々あって少女でありながらたまなつの「父親」に相当する彼女はいつの間にかテーブルの向かいに座っていた。
 「パパ……?」
たまなつは呟いた。たまなつの「父親」のしらたまは、会おうと思えば連絡して会うことはできるものの、普段同じ家では暮らしておらず、どこに住んでいるのかもわからないはずだった。
 「これがあなたの幸福の形なのですよ」
どこからともなく声がする。それと同時に、周囲の光景が一時停止したように凍り付く。
 「なんと純朴な幸福の形となったのでしょうか。私が手を加えることなんてほとんどありませんでした」
その声は、サナティアの声だった。
 「おっと、穏やかな家族との時間を邪魔してしまいましたね。どうか引き続き、お楽しみくだ──」
サナティアがそこまで言ったとき、たまなつの真後ろから
 「これで本当にいいの?」
という声がした。振り返ると、そこには自分がもう一人立っていた。少なくとも、たまなつはそれが自分自身だと認識していた。だがその容姿は少したまなつとは違っていて、髪は外側にはねておらず、猫の耳もしっぽもない。代わりに猫耳つきのヘッドホンを首にかけている。本来であれば見たことのない少女だった。だがその声は、録音した自分の声を聞いているようにしか感じられず、容姿の違いはその少女を「自分とは別の人物」と認識させるには至らなかった。
 「ありのままの家族の姿が好きなんでしょう?」
その言葉に思わずたまなつは
 「えっ……」
とだけ返した。
 「やはり”もう一人”いたんですねー。誰しも内面に別の自分を持っているものですがまさか」
と、どこからかサナティアの声がしたが、たまなつに似た少女はそれを遮るように
 「ほうっておいて。ここは私とたまなつだけの場所なの」
と言った。たまなつはただ唖然としていた。
 「それは失礼しました。私もここで長々と喋る気はありませんが、望むならあなたにも楽しい夢を見せてさしあげますよ。いかがですか?」
サナティアの声は相変わらずどこから響いてくるのかわからなかった。しかし、どこに目をやるでもなく少女は一言、
 「いらない」
と言った。そして、
 「たまなつが生きてる限り、私はもうずっと夢を見続けてるの。悪いけど出ていって。あなたが見せてくれる夢は私達には必要ないの」
と続けた。すると、急に辺りが真っ暗になり、そこにはたまなつと少女だけが取り残された。
 「大変失礼しました。私はたまなつさんの意見をまだ聞いていませんが、あなたがそう言うのならここでお話するのはもうやめにしましょう。それでは、お二人ともよい夢を」
サナティアは最後にそう言って、姿は相変わらず見えないがどうやらこの夢の中からはいなくなったらしい。暗闇の中、たまなつは座っていた椅子すらなくなってただ何もない地べたに座り込んでいた。
 「こんな形で私達が対面するなんて思わなかったな。でも大丈夫、起きたら忘れちゃうから」
そう言われてたまなつは座り込んだまま、
 「君は誰? 私じゃないの?」
と尋ねた。少女はどう答えるか少し悩んだが、
 「その質問に答えるには、朝が近すぎるかな。まあ、どうせ忘れちゃうから、気にしないで。自分だけの幸せをどうか見つけてね。それじゃ」
と答えた。たまなつは立ち上がって手を伸ばそうとしたが、その手は自室の宙を掴んだ。

 朝だ。何か、妙な夢を見たような気がする……と、まだ寝ぼけながらたまなつは思っていた。カーテンを開けると、空は曇っていていつ雨が降って来てもおかしくない様子だった。あちゃー、と思いながら洗面所で顔を洗っていると、眠すぎて目がほとんど開いていないカリンが後からやってきた。
 「カリンちゃんおはよう」
と声をかけたが、
 「あぁん?」
とだけ返事が返ってくる。寝起きのカリンの機嫌は最悪だが、今日は祝日でいつもより起きてくるのが遅かったため輪をかけてひどい。そんな日はたまなつもわざわざ挨拶しないのだが、ぼんやりしていてすっかり忘れていた。
 朝食を食べに食卓に着くと、なんだかキッチンの方が騒がしく、やたら炊いている途中の米の匂いが部屋に漂ってきていた。
 「あ、たまなつちゃんおはよ! ごめーん、今日当番なの忘れててさー。でも最近の炊飯器は早炊きできて便利だよね」
大して悪びれる様子もなくそんなことを言っているのは、居候のラスクだ。
 「便利だよねじゃないのよ、早炊きするとご飯が熱いしベチャってなっちゃうんだから! 怒るわよ! カリンが……ねえ、朝ごはんにこだわってるんだから」
と声を荒げているのは、家事全般の総指揮を執っているあまなつであった。
 「え? あぁ……いや別にいいわよなんだって。大体朝ごはんにこだわってんの姉さんだけだから……」
カリンはたった今リビングに入って来て早々に話を振られて、そんな釣れない返事をしつつ大きなあくびを一つしてどっかりと食卓に着いてぐんにゃりとしている。
 「えー!? 何よもうーカリンってば肝心な時に甘いんだから……たまなつちゃん! 今日は黙って座ってないで手伝って!」
あまなつがそうやって急に声をかけてきたのでたまなつは
 「はーい」
と答えて立ち上がり、食器の用意などを手伝い始めた。とても幸先のいい一日とは言えない、どちらかと言えば災難な朝だった。だが、それは決して悪いことではなかった。なにしろたまなつは、こんな日にも静かに笑っていたのだ。

 それからたまなつは結局この前の夢の内容を思い出そうとすることもなく、一度は枕元に置いたキーホルダーも机の引き出しに収納してしまったし、ましてや「本当の幸せ」のことなんてもう頭の片隅にすらない有様だった。ただいつも通りの日常を送っている。ただひとつ違うことと言えば、時折放課後に「フォルトゥナの輪」の活動へと向かう生徒を見かけたり、校内の掲示板に素朴な参加者募集ポスターがあるのが目に付くようになったことくらいだ。例のクラスメートは相変わらず朗らかで、最近はカリンに進んで話しかけたりもしているようだった。それで不思議と、たまなつはサナティアのことが気になっていた。最初は少し警戒していたし、その語り口調も独特に思えたが、ひたむきで純朴な優しい彼女のことを思い出すと、なんとなくまた会いたい気持ちになってくる。もう少し、彼女から話を聞いてみたい。まあ、本気でそう思っているならボランティアにもう一度参加すればいいだけのことなのだが、2回も参加すると今後も出なきゃいけなくなりそうでちょっと気が引けるので、あわよくば偶然学校のどこかで鉢合わせればいいと思っていた。そして、その望みは存外あっさりと叶えられることになった。
 「それは素晴らしいです。本当によく頑張りましたね」
 「先輩に褒められるなんて嬉しいです!」
 「私も後輩が人助けをしていることが誇らしいと思っています。今日の活動も頑張りましょうね」
たまなつが放課後、家に帰ろうと廊下を歩いていると、廊下からそんな会話が聞こえてきた。そしてその後、
 「こんにちはー」
と、たまなつに気づいたサナティアが手を振ってきた。
 「あ、サナティア先輩こんにちは。ちょうど探してたんですよ」
たまなつは思いがけない遭遇を幸運に思い、いかにも積極的に探していたような口ぶりでそう言ってしまった。するとサナティアは静かに微笑み、
 「そうだったんですか? それにしては随分のんびりと歩いているように見えましたが、私もあなたが私を探しているのではないかと思っていたところなんですよ。ちょうどよかったでしょう?」
と言った。たまなつは気の利いた面白い冗談だと思い、アハハ、と声を出して笑った。
 「素敵な笑顔です。まるで純真なようではありませんか。ところで、廊下で長々とお話するのもなんですから、これから静かにお話しできるところに行きませんか? よければ私のお気に入りの場所があるのですが」
サナティアがそう言うので、たまなつは頷いてサナティアについていくことにした。

 これといって道中おかしなことはなく、二人は学校の近くの坂の上にある小さな公園に辿り着いた。
 「このベンチに座ると、この町が一望できるんですよ。私はここから見える光景が好きで時折こうして一人でこの公園に来るんです。ここから見える光景は、まるで平穏な日常が砂時計の砂のように少しずつ穏やかに蓄積されていくようで、私はそれがいっぱいになって誰もがヒトの幸福となるその時を夢見ているのです。すると胸がすく思いになります。私の幸せが理解できますか?」
サナティアはベンチに腰掛けるなりそう話した。たまなつはじっと話を聞いてはいたが、突拍子もない質問に少し困惑した。
 「平和な町が好きってこと?」
たまなつがそう尋ねると、サナティアは満面の笑みを浮かべ、
 「その解釈はほぼ正解そのものといってもいいでしょう。ですがそのためには……変えていかなければならないものがたくさんあるのです。あなたも知っていると思いますがこの町は、いえ、この世界は決して治安がいいとは言えません。治安の良し悪しとはすなわち、ヒトの悪意や暴力の有無によって決まるものです。この町にもまだまだ暴力があり、悪意があります。ですが見てください。フォルトゥナの輪の活動に参加してくれている皆さんはもうすっかりそれらから隔絶され、お互いを思いやる心に満ちています。私は別に『満ちている』必要まではないと思っているのですが存外皆さんが善良な振る舞いをしていることを特に嬉しく思っているんですよ。ですから」
とまで言うとじっとたまなつの目を見つめてきた。たまなつは明確に、今日はサナティアの目は「自分自身」を見つめているように感じられた。この前のように、何かもっと遠くを見透かされているような感じはしなかった。そして、
 「あなたに手を加えられなかったことを不可解に思っているのです」
と続けた。
 「え……何が? 私に……?」
たまなつは困惑して尋ねた。何の話か全くわからなかった。
 「どうやらやはり覚えていないようですね。ですが今はそこに固執するべきではないと私は考えていますから、気になさらないでください。それよりも私は対話を行うことがより本来のヒトの形に近いものだと思って、こうしてあなたとお話しているのです。例えば、あなたは自らの持つ暴力性についてどうお考えですか? 暴力性というのは文字通りの意味で、あなたがしばしばいわゆる喧嘩をしていることを私も知っているのです。それはなぜですか?」
サナティアは尋ねてきた。たまなつはまだ少し困惑していたが、
 「それは、向こうが悪いからだよ」
と答えた。
 「そうかもしれません。今のところは。ですがあなたはカリンさんからも暴力を受けることがあるようですが、それはあなたが悪いからなのですか?」
サナティアは続けてそう尋ねてきた。
 「うん……そうだと思う。カリンちゃんが怒るのは、私が悪いからなんだと思うよ」
たまなつはそう言うと少し目を伏せた。
 「本当ですか? 本当にそれだけなのですか? 彼女は自分の機嫌の悪さを思うままに振り撒いてあなたに不要な害を与えているのではないのですか? それではまるであなたはいつも物陰で嵐が去るのを待っている哀れな子猫のようではないですか。私はこれを不幸と捉えているのです」
サナティアがそう話すのをじっと聞いているとたまなつはすごく腹が立ってきた。いつもそうだ。自分はカリンを慕っていて、ちょっとくらいカリンが乱暴だって何も悪く思っていないのに、何も知らない第三者は自分を被害者、カリンを加害者のように語り、カリンのことばかり悪く言う。
 「なんでそんなこと言うの! カリンちゃんは悪くないのに!!」
たまなつは声を荒げて思わず立ち上がった。
 「そうやってあなたは怒りに任せ、他のクラスメートに暴力を振るってきたはずですよね。あなたが悪いわけではないはずなのに、あなたは人を傷つけ、自らも傷つき、あなたが名誉を守ろうとしたカリンさんからさえその咎の報いを与えられる。果たしてこれで誰が幸せになるのでしょうか」
サナティアはつとめて冷静にそう言い放った。たまなつは何も言い返せなくなり、再びベンチに座ってぐんにゃりとうなだれてしまった。
 「……なんでそんな意地悪なこと言うの。私だって、どうしたらいいかわかんないのに……」
たまなつがそう言うと、サナティアは町の方を見つめながら、
 「だから私は、全ての暴力、全ての悪意を許すことがないのです。誰もがお互いを思いやることができれば、あなたもそうやって傷つくことはありません。お姉さんを守るために莫大な力を蓄えているカリンさんも、脅威がなければ、そして彼女自身が誰をも思いやることができるようになれば、その力を誰にも振るう必要がなくなります。誰もが互いに助け合い、ヒトの幸福そのものとなる。それでいいではないですか。私の言っていることは何か間違っているのでしょうか」
と話した。たまなつは少し考え、そうしてミルヌーヌと話したことをようやく少し思い出した。自分の本当の幸せとは、もしかしたら自分だけのものではないのではないか。その疑問の答えをサナティアが持っていた。しかし、
 「でも……そんなことできるの? それができてないから、治安が悪いところがあるんでしょ?」
たまなつは尋ねた。サナティアの言うことは、たまなつにはあまりにも壮大な絵空事に思えたのだ。
 「それができるのです。それがヒトの望みであって、私に与えられた全てだからです。そういう意味では……私とあなたは少し似ているのでしょう。与えられた望みに従った振る舞いが私達にとっての『生』であり精神性の担保だからです。とにかく私は、これからも活動を続けるということです。その結果は必ずあなたにも届きます。だからあなたはその日を楽しみにしていてください。その時になれば”お二人とも”きっともう一度あるべき幸福の形のその価値を理解することができるはずです」
サナティアはそう言うとスッと立ち上がり、
 「では失礼します。今日の活動は夕方からですから、私を待っている皆さんのために行かなくてはいけないのです。今日はお話に付き合っていただきありがとうございました。よければお礼に今度ジュースをおごってあげますよ」
サナティアはそういってたまなつに微笑みかけると、ゆっくりと手を振って歩いて去って行った。たまなつはというと、
 「あ、あの……」
と小声で呟くことしかできず、それはサナティアには届かなかった。そうしてしばらく、誰もいなくなった公園でぼんやりと、平穏であるかのように振る舞う町の姿をじっと見つめていた。そのときたまなつは、サナティアの考えていることはちょっと難しいが、きっと素敵なことなんだろうと思っていた。もしかしたら、みんなが幸せになる未来があるのかもしれない。誰も嫌な思いをしなくて、お互いにただ想い合って生きていける未来のことを想像すると、少し気分がよくなった。

 また別の日、たまなつは放課後にある地点に向かって走っていた。その辺に人の姿はない。みんなどこかへ隠れてしまったのか、或いはその舞台に人気のない場所が選ばれているのかはわからないが、早く辿り着かないと見逃してしまう。たまなつは格闘で決着がつかなかったときに出る”アレ”をなんとしてもこの目で見たいのだ。そしてどうやら、今日はその瞬間にギリギリのところで間に合ったらしい。
 「ミラクルミルク……ファンタストーーーーム!!!!」
先端にかわいらしいハートのついた華奢なステッキから、極大の熱光線が発射される。見ているだけで網膜を焼いてしまいそうなほどの光量の「魔法」はキラキラと、真昼の日差しにすらオーバーレイするあでやかな色彩で、その射程に捉えられた怪人を跡形もなく消失させた。
 「おおおおーーーー!!!! カッコイイー!!」
たまなつは戦いが終わったミルクのもとに駆け寄り、目を輝かせていた。
 「あ、たまなつちゃん……危ないからあんまり見に来ないでって言ったのに」
ミルクはまだ白いフリフリのキュートな衣装に変身したまま、少し困った顔をしていた。
 「ムイー!」
そう声を上げたのは、青くて丸っこい体に短い手足と翼をつけ宙に浮く小動物、ムーイだった。たまなつの友人であるミルクは、たまなつ同様猫の耳と尻尾を持ち、薄いベージュのロングヘアをして、本来なら普段はこんな派手な装いはしない、少し内気な女の子だ。

 それが、この別世界からやってきたという謎の小動物のムーイに契約を迫られ、今では魔法少女として時折どこからか町に現れる「怪人」と戦っている。元々ミルクは年齢相応に変身願望を持っていて、お姫様だとか魔法少女だとかに憧れていたので、夢が叶ったと言えばそうなのだが、あくまでも変身することに憧れていただけの内気な彼女が異形の怪人と文字通り格闘するまでに至ったのには、何か相当な葛藤や覚悟があったことは想像に難くない……のだが、それをあまり想像できていないのがたまなつという人物であり、いつも彼女は
 「いいなー、今日も最高だったよーその必殺技! いいなー、私も魔法少女やってみたいなー」
とミルクの戦闘風景を見に来ては羨ましがっていた。しかし、何度ムーイにせがんでも、ムーイは頭を横に振って否定するばかりでたまなつを全く魔法少女に起用してくれなかった。ミルクは契約しているためムーイが何を言っているのか概ね理解できるのだが、たまなつを魔法少女にしない理由についてはムーイは何も語らない。

 「そんなわけで今日もミルクちゃんは最高だったよ。ラスクちゃんも見に来ればいいのに」
たまなつは家に帰って、興奮も冷めやらぬままラスクに今日見てきたものの話をしている。ラスクは台所でインスタントコーヒーを淹れながら、
 「フフ、甘いねー。コーヒーは苦いけどね。君は甘いよ。私がそんな面白そうなところ、見てなかったとでも思ったのかい?」
と、これ見よがしにドヤ顔をして言ってきた。たまなつは怪訝そうに、
 「この前は魔法少女のことは調べてないって言ってたじゃん」
と言ったが、ラスクはコーヒーを一口すすると
 「そうだったんだけどさ、この前君に教えてあげた情報が、いざ教えてみるともう知ってることばっかりだったもんだから悔しくてね。名誉挽回のために一生懸命情報収集してたってわけ。健気じゃない? 私ってさ」
と言ってきたので、たまなつは少し呆れ気味に
 「あー……うん。じゃあ今日は新情報があるってことでいい?」
と尋ねた。するとラスクは、
 「もちろんだとも。君がそれを聞いてくれるのを楽しみにしてたんだ。そうだな、まず……君はそもそも『怪人』がどういう存在なのか、知ってるかい?」
と逆に尋ねてきた。たまなつは首をかしげながら
 「うーん……なんかどっかから湧いてきた悪いバケモンだとしか思ってなかったけど」
と答えた。ラスクはそれを聞いて満足そうな顔をし、
 「そうだろう? そうだと思ったんだ。君ってば細かいことは気にしないからね。でもこれが大事なことなんだ。怪人っていうのは……人々の感情が結実した生命体なんだよ。一体どうやってヒトの感情が実体を持って凝集して、生命体に昇華するのか……そこまではさすがに私にもわからないけどね。とにかくこの怪人っていうのは自分を構成する属性に従って行動する。要するに、怨みでできた怪人はヒトを怨んでいるし、怒りでできた怪人は怒りに身を任せて暴れ回る。とにかくヒトの強い感情なんていうのは大体ロクなもんじゃないから、怪人が出たら誰かが退治しなきゃいけないってわけ。ここまではわかるかな」
と説明をした。たまなつは少し考えて、
 「うん……その誰かっていうのが魔法少女たちってわけだよね」
と答えた。
 「その通り。これまた魔法少女……延いては契約によってそれを世に送り出しているムーイたちにとって何の得があるのかは私にもわからないけど、大抵の怪人は物理的な手段ではなかなか倒せないみたいで、『魔法』が有効打になるってことらしい。君がミルクちゃんの戦闘を見に行ったときいつも必殺技で決着がつくのはそのためだね」
ラスクは続けてそう話した。
 「一度、カリンちゃんが魔法少女が到着する前に怪人を一体戦闘不能になるまでボコボコにぶん殴り続けてたことがあるらしいけど……怪人って頑丈なんだなぁって思ってたよ。そういうことだったんだね」
とたまなつが言うとラスクはとても驚いた表情で
 「え……そういうこと……えぇ……? カリンちゃん、生身で怪人と格闘して圧勝しちゃうのか……明日からもうちょっとご機嫌とった方がいいかな……」
と不安そうに言った。
 「私はカリンちゃんのご機嫌を取れたこと一度もないから、難しいと思う」
たまなつは真顔でそんなことを言う。
 「うーん……いやまあ、いいや。そんな怪人だけど、当然強いのもいれば大したことないのもいるんだけどね、共通してることもある。それは、放っておくと大変なことになるっていうところなんだ」
ラスクはそう気を取り直して説明した。
 「大変なこと?」
たまなつが尋ねると、ラスクは静かにうなずき、
 「怪人は感情から生まれたって言ったろう? だから、放っておくと周りにもその感情を伝播させていく。伝播した感情はさらに怪人を強化して、やがて人々はみんなその感情に飲まれてしまうっていう寸法だ。恐ろしいよね」
と話した。たまなつはラスクのコーヒーを勝手に一口飲んでむせていた。
 「ラスクちゃんブラックコーヒーしか飲まないんだったね……」
そう言うとラスクはニヤニヤしながら
 「こらこら、勝手に人のコーヒーを飲まないでよね。で、わかったかい? 怪人の恐ろしさが」
と言った。するとたまなつは
 「実はカリンちゃんも怒りの怪人なんじゃないのかな……と思ったけど、周りに怒りを広めてないから違うってことだね」
と、周りに本人がいないことを確認しながら言った。ラスクはすっかり呆れ顔で
 「カリンちゃんのことは一旦置いておいてほしいな、話がややこしくなるよ……でもね、実を言うと怪人がどれだけ大暴れしても、彼らの目論見は上手くいかないんだ。それがどうしてかは……君に問題として投げかけるには少し難しい話になるかな」
と話した。たまなつは怪訝な顔をして、
 「それは、魔法少女が阻止しちゃうから上手くいかないってことじゃないの?」
と尋ねたが、ラスクはまたにやりと口角を上げて、
 「もちろん、それもある。けど本質はそこじゃないんだ。その原因は、怪人の能力が抱えてる根本的な欠陥に起因するものなんだよ。彼らの発生自体がある種の現実改変によるもので、感情の伝播もまた広義の現実改変によるもの……これは範囲が広範で予測がつかないから、彼らの発生や能力の行使を阻止すること自体は難しい。しかし……」
ラスクはそう言うとコーヒーを一口すすり、神妙な顔をした。
 「それが仇になるのさ。土台無理なんだ、現実改変で生まれた怪人自身が、さらに広範に渡って無差別に現実改変を繰り返すなんてことはね。だから、破綻する。改変される部分とされない部分があちこちで隣り合って、整合性が取れなくなる……『現実断層』が発生してしまう。そうなれば怪人も無事じゃすまない」
ラスクがそう言うと、たまなつはふーん、とつまらなさそうな顔をして
 「それじゃあ、魔法少女が出て来なくても怪人は自滅しちゃうってことなんじゃないの?」
と尋ねた。するとラスクはチッチッチ、と指を振って、
 「怪人が自滅するだけで済めばいいけどね、現実断層が発生したら辺り一面目も当てられない大惨事になるんだ。例えばヒトの体の部位が無造作に……いやいや、こんな話は君には恐ろしくてとてもできないよ。でもまあ、魔法少女が怪人を倒しに来るのはそれほどの恐ろしい事態を防ぐためとも言えるね。現実断層は放っておいたらあっという間にそこらじゅうを無茶苦茶にしちゃうんだ。もしかしたら、ムーイたちも現実断層の発生を阻止したいから契約を迫ってるのかも……まあ、その辺はわかんないけど」
ラスクがそう話した頃には、たまなつはミルクの戦うところを見て面白がっていた自分を振り返り、ほんの少しだけ反省していた。魔法少女ってそんなに大変な相手と戦っていたのか、と。

 そう、いつかの日の、そんな出来事をたまなつは思い出していた。今、人目につかない住宅街の奥まったところにある無人の倉庫前で、穏やかな休日の昼下がりのこの瞬間に。目の前には、あの日と同じくフリフリの白いドレスに身を包んだミルクが、地面に横たわり身じろぎ一つしなくなっている様子が、まるで嘘のように鮮明に目に飛び込んできている。こんなことはあり得ない。こんなことが許されていいはずがない。たまなつは思考が止まり、きっとこの光景は現実ではないと思っていた。だって、ミルクちゃんはぴくりとも動かないんだ。時間が止まった夢を見ているんだ──
 「ムイー!!」
と、そんなたまなつの現実逃避を真っ向から打ち破る声がする、ムーイが、泣きながら短い手足で必死にミルクを揺さぶっている。たまなつは思わずはっとして、自分もミルクの体をゆする。
 「ミルクちゃん!! しっかりして、ミルクちゃん!!!!」
だが、ミルクは答えない。
 「大丈夫ですよ。ちょっと眠っているだけですからすぐに目を覚まします。だってほら、変身が解けていないでしょう? ミルクさんの体に問題のないことのそれが証拠です。私だって急にこんな昼下がりに襲い掛かられたらあんまり驚いて不本意なことをしてしまうこともありますが、私はただヒトの幸福になりたいだけですから乱暴なことはぜっっっっっっっったいにしないのです」
やや早口でそう話したのは、短い金髪の見知った少女だった。しかし、これまでとは違いその頭の上には素朴な金色のヘイローを浮かべ、純白のワンピースに身を包み、また純白の翼をもつ天使の姿をしている。
 「サナティア先輩……?」
たまなつは向こう側に佇む少女に向かって尋ねた。
 「はい。私はサナティアですよ」
サナティアは答えた。たまなつは、サナティアの本当の姿を目の当たりにしてカリンから聞いた話を思い出していた。例え下級天使であっても、ヘイローと翼をもつ天使は人間や獣人よりも遥かに上位の存在で、竜人族や魔族と同様に、もめ事が起こらないようカリンですら敬遠しているのだという。
 「いつかこんな日が来るって、わかっていたんです。それだから私は穏当に、誰も傷つけず、ただヒトを愛し続けてきたのに。でもこんな日は来てしまうんです。それならば私は、全力で抵抗するしかないじゃないですか。自分の全てをかけて、暴力の一切を否定して、しかし戦いには勝利しなくてはいけない」
サナティアは極めて冷静に、穏やかな表情のままそう話した。たまなつはその様子が何かあまりにも異様に見えて混乱し、冷や汗が出てきていた。
 「ムーイくん……ねえ、この人……『怪人』なんだよね?」
振り返ってムーイにそう尋ねると、ムーイは激しく頭を縦に振った。
 「やっつけなきゃいけないんだよね……?」
続けて尋ねると、ムーイはまたさらに力強く頭を縦に振った。
 「私はこれほど悲しく思ったことはありません。この世の全ての間違いが、今日と云う一日に集約されていて私に襲い掛かってきているかのようではありませんか。それにもかかわらず、ミルクさんは私に向かってステッキを振りかざすのをためらっていました。なのに、それなのに、そこのムーイという子は私が『怪人』だというから、彼女は仕方なく私に襲い掛かってきたのです。あんまりかわいそうでかわいらしくて、そうですね、もしも嫌々乱暴なことをさせられている子がいたら」
そう言うとサナティアはたまなつに向かってゆっくりと歩いてきながら、少しトーンを落とした声で
 「あなたはどうしますか」
と尋ねてきた。たまなつは全身が総毛立つような感覚に襲われ、思わず身構えた。
 「大丈夫、そんな難しいことを考える必要はありません。一般的なヒトにそれを安全に制止させるのは少し無茶で、私はそれだから彼女を気遣ってほんの少しお休みしてもらっただけなのです。幸せな夢を見て、目が覚めたら私に乱暴なことをしようとしていたことなんてすっかり忘れてしまって、私は彼女とお友達になって彼女の幸せの一部になることができるのです。それのどこがいけなくて、どうして私が傷つけられなければいけないんでしょうか。こんなことは間違っていると思いませんか?」
サナティアはそう話し、穏やかな表情で首をかしげながらたまなつに尋ねてきた。もし彼女の言っていることが本当であれば、彼女を退治する必要は何もない。その根拠と言えば、せいぜいムーイが彼女を「怪人」と認定していることと、それと……
 「ど……どうして、先輩は人に夢を見せるの?」
たまなつは苦し紛れに疑問をぶつけた。するとサナティアは笑顔になり、
 「それは素晴らしい質問ですね! 本当は夢を見せる必要なんてないんです。ただ、眠りの中で少しだけ幸福を垣間見ることができれば、私と同じ道を歩む足掛かりになるかも知れませんからそうしているだけなのです。ただ私がヒトの幸福になること。乾いた月が海に溶けていくように、皆さんが同じ幸せを共有できるようになること。それが私に与えられた使命の全て。だから私は、フォルトゥナの輪の皆さんが『楽しい夢』を見たら……『私と同じ考えを持つように』したのです。とっても素敵だと思いませんか? 時折、私欲にまみれた夢を見たがる方もいましたから、少し調整が必要なこともありましたが……お互いがお互いのためを思い合う夢を見てもらったら、みんな自然にそのような世界を望むようになるのです。もう誰も、傷つけあうこともなく、争い合うこともなくなるんですよ」
それを聞いてたまなつはラスクが言っていたことを思い出した。
現実改変──
そうだ。サナティアがやっていることは、幸福な夢を、それも恐らくは奉仕と相互理解を重んじるサナティアの思想に沿った「幸せ」に基づく夢をフォルトゥナの輪の活動に参加した人々に見せて、本人の人格とサナティアの思想の間にある「ギャップ」をなるべく軽減した上で、現実改変によってそれを埋め合わせる、という行いだったのだ。
 「それはサナティア先輩が、怪人だから……現実改変ができるから、そうしているの?」
たまなつはついに直接そう尋ねた。すると、サナティアは特に意外でもなさそうに
 「はい。私はヒトの『幸福がほしい』という願いが結実することによって発生した『怪人サナティア』なのです。ですから、私は誰しもが望んだことを、最も合理的な方法で行っているんですよ。それなのに……私は『怪人だから』という理由だけで、この世から消滅させられようとしている。それに、目の前で問答をしているあなたは私の調整を真っ向から拒否したことがある。ヒトの幸福にとっての敵となるのは果たして誰だと思いますか?」
と尋ねてきた。
 「拒否……? あ、そういえば……」
たまなつは、以前見た夢の内容を思い出したわけではなかった。だが、身近なある現象を思い出した。
 「私のクラスメートが何人か、学校に来てないの。最初は風邪でも引いたのかと思ってたけど、よく聞いてみたら……眠ったまま目を覚まさないんだって。それも……もしかしてサナティア先輩が関係しているんじゃない?」
たまなつがそう尋ねると、サナティアの顔から穏やかな笑みが失われた。
 「彼らは、少し調整に時間がかかっているだけです」
サナティアはそう答えた。
 「それはなぜ? 先輩と同じ考えを持つようにするのが難しいってこと? それなら……例えばもし、うちのカリンちゃんに夢を見せようと思ったら、目を覚まさなくなっちゃうの?」
たまなつが続けてそう尋ねると、
 「……そうですね、あまりに利己的であったり、自我が強かったり、強い暴力性を持っていたり……そういった方の調整には時間がかかることもあります。ですが、いずれ必ず目を覚まします。そして……彼らもまた、ヒトの幸福となるのです。カリンさんも同じです。あなたのお姉さんを愛するのと同じようにあなたを慈しむようになるでしょう。それはたまなつさん、あなたにとっても幸せなことではありませんか?」
たまなつはそう尋ねられ、ほんの少し、おぼろげではあるが自分にとても優しいカリンの姿が想像できた。そこはかとないデジャヴと共に。だが……
 「それは、少し違うと思う」
とたまなつは答えた。そして、
 「私が変わらないでカリンちゃんだけ変わるのは、都合が良すぎるよ。それじゃあ私の幸せのために、元々のカリンちゃんを否定していることになるから」
と続けた。するとサナティアは少しだけ悲しそうな顔して、
 「それであれば、あなたも変わればよいのです。同じ思想を持つ者同士は惹かれ合い、共感し合い、等しく愛し合うことができます」
と言った。たまなつは今や迷いなく、
 「それは本当に……この世界の誰もが望んでいることなの? 自分を捨てて、自分の好きな人の個性も失って、それで……みんな同じになって、本当に幸せなの?」
と尋ねることができた。それを聞いたサナティアはショックを受けたように右手で顔を覆い、苦痛に歪んだ表情を見せ始めた。
 「あなたは、利己主義と搾取と暴力を肯定し、それを全体の目指すべき幸福と置き換えているに過ぎません。あなたのような方がいるから……あなたのような方が……”この世界そのものであるから”私は……私の力は……!!」
そう言うとサナティアのヘイローの色がおもむろに美しい金色から鮮血のような色に変化し始め、純白の翼は液体を吸い取る筆のように羽の先からじわりと浅黒い色に染まり始めた。
 「ああ、なんということでしょう。よりにもよって、今なのですね。まだ、私はなにもかも始めたばかりだというのに。毎朝顔を洗って歯を磨いて着替えをして学校に行って授業を受けてお話をして皆さんとお友達になってご飯を食べて一緒に帰って」
サナティアは自分の体の異変を目の当たりにした途端、止めどなく一日のルーチンをしゃべり始めた。それに対して
 「ムイー!!」
と、ムーイが必死に叫んでいる。周囲の空間の様子が何かおかしい。空気が、空間が、位相が、無造作にズレ始めているのが目で見える。
 現実断層──
ラスクの言っていたことが頭をよぎる。一目見ればわかる。この現象は終わりの始まりだ。たまなつはその瞬間、覚悟を決めた。

 「しらたま流抜刀術」
たまなつはゾメが施した魔法で隠していた刀の鞘を握ると鯉口を切り、抜刀を宣言した。やるしかない。魔法少女に変身できなくても、派手な必殺技が使えなくても、ここで終わらせなければならない。現実断層が手遅れになる前に、サナティアを無力化しなくてはならない。たまなつは抜刀と同時にアスファルトをえぐるほどの踏み込みでジグザグに前進し、不可視の速度でサナティアに斬りかかった。その技の名は
 「猫跨ぎ──」
入った。しかし、直立したサナティアの体には傷はつかず、その手ごたえは刃を当てたときのそれではない。バサッという音と共に跳躍して後退し、自分の獲物を見てたまなつは驚嘆した。握っていた刀が、大きなネモフィラの花束に変わっていたのだ。
 「私は、暴力を決して許すことがないと言ったはずですよ」
そう言ってサナティアが呼吸を整えると、一旦現実断層の発生は沈静化した。どうやら力をたまなつの持っていた刀に収束させたお陰で一時的に暴走を免れたようだ。たまなつは花束を地面に投げ落とすと、次にサナティアに直接飛び掛かった。
 「しらたま流柔拳法」
たまなつがそう宣言してサナティアの襟元と袖を掴んだとき、急に天地がひっくり返ってたまなつは地面に寝かしつけられるように倒れ込んだ。
 「水掬い……でしょうか。私には通用しません」
サナティアはそう言うと、ふらふらと歩いてその場を離れようとしていた。たまなつは心の中で己の無力を嘆きながらも立ち上がり、果敢にその背中に飛び掛かろうとする。しかし、振り返ったサナティアの目力一つでまるで金縛りにあったように気圧され、その場から動けなかった。
 「だから、これだから、ダメだったのです。力を使えば使うほど、私は太陽に近づいてしまう。わかっていました。この天使の翼は、蠟でできた翼だったのです。それで私は翼が溶けないよう、低空を広く飛び回っては、幸福の輪を少しでも広げようと足掻いてきたのです。けれどもう、これでお仕舞いです。私はもうじき地面に堕ちるのです。たまなつさん、すみませんがミルクさんとムーイさんを連れて遠くへ離れてください。私は一人で、誰にも痛みを与えることなく翼もろとも燃え尽きなければなりません」
そう言ったサナティアのヘイローは金色と赤色が短い間隔で入れ替わるようにチカチカと点滅し、翼は再び浅黒く染まり、今度は末端から腐り落ちるように液状化し始めていた。再び空気が震え、周囲の空間が静かにひび割れ始める。サナティアはその進行をなんとか抑えているようで、一歩一歩ゆっくりとその場を離れていく。
 「ムイー!!」
ムーイがまだ叫んでいる。たまなつはムーイの言葉の意味を直接は理解できなかったが、その様子から何が言いたいかは察することができた。このままサナティアがこの場から離れていったとしても、大きな被害が発生することは免れない。人気がないとはいえ、ここは住宅街の一角なのだ。間に合わない。ここで、今ここで阻止しなければならない。万策尽きたかと思われたが、周囲を見渡した時、たまなつはあるものを発見した。それは、ミルクの傍らに落ちているかわいらしいハートのついた華奢なステッキだった。ミルクは眠っているが変身が解けていないため、まだステッキは生きている。たまなつはそれを拾い、サナティアの方に構えた。
 「サナティア先輩!!」
たまなつが叫んだ。本当は嫌だ。こんなことはしたくない。だけど……そんな葛藤の中、サナティアがゆっくりと振り返った。
 「それは……やめてください。あなたはそれを使うことができません。あなたがそれを使えば、生命を犠牲にしてしまう。どうか、やめてください」
そう制止されたが、たまなつはそんなことは言われなくてもわかっていた。以前ミルクにも同じことを言われたことがある。魔法少女として契約した者以外は、魔法少女の武器を使用するのに必要な魔力のパスが通らず、使おうとすると生命エネルギーが魔力に変換されてしまうと。その話を思い出すまでもなく、たまなつはそれが紛れもない真実だということを既に感じ取っていた。気功を学んだ経験のあるたまなつは自分の体内の「気」の流れを感じ取ることができたが、このステッキを握る両手に向かって「丹田」から気が集まっている。生命エネルギーが、既に吸い寄せられているのだ。覚悟を決めて両手に力を込めたその刹那、ステッキに気が一気に流れ込み、たまなつははらわたの一部がごっそり削り取られたような強い痛みを覚え、膝をつきそうになった。
 「がはっ……」
まだ握っただけでこれなのだ。技を繰り出したら、体がどうなるかわからない。そして、視界が一瞬ブラックアウトし、再び前が見えたと思ったとき、たまなつは何もない真っ白い空間に立っていた。
 「君は、全てわかっていてそのステッキを手に取ったんだね」
後ろから誰かの声がする。振り返ると、そこには青い髪と、ミルクの魔法少女の衣装に似た青いドレスの小柄な少女が立っていた。たまなつは、その少女をムーイだと認識していた。
 「君だけなら逃げられたかもしれないよ」
ムーイはそんなことを言い出した。
 「どうしてそんなこと言うの」
たまなつが尋ねると、ムーイはただ
 「ミルクちゃんと君が逆の立場だったら、ミルクちゃんが君を助けるために命を賭けるかどうか、僕にはわからないから」
と答えた。たまなつはそれを聞いてあはは、と笑い、
 「賭けないかもね。でもいいの。ミルクちゃんはそれでも大事な友達なんだ。見捨てるなんてありえないよ」
と言った。それを聞いたムーイは少し残念そうに、
 「君を魔法少女にしてあげられなかったのは、君の精神構造が通常のヒトのそれではなかったからなんだ。ごめんね。こんなことになってしまって」
と話した。たまなつはそれを聞いて
 「よくわかんないけど、私頑張るから、見ててよね」
と答えた。その直後、視界が再び現実のものに戻った。震える全身に精一杯の力を込める。痛みにはもう慣れた。あとは、撃ち込むだけだ。
 「やめなさい!!」
サナティアはそう叫ぶと、ついに向こうからたまなつを阻止しようと、朽ちた翼を広げ一直線に飛行して来た。しかし、ここでやめるわけにはいかないのだ。たまなつは素早く身をかわし、ステッキを手に飛び回る。一体なぜだろうか。体がとても軽い。希望に満ちた気分になってくる。これが魔法少女の見ている光景なのだろうか。今にもひび割れて落ちそうな空の色は目に焼き付くほど明るく、きらきらとした日差しの中、たまなつは魔法の力でひらひらと優雅に踊り続けているようだった。そして、ついにサナティアの動きが鈍った隙を突き、その全身を射程に捉え、必殺技を放つ。
 「ミラクルミルク……ファンタストーーーーム!!!!」
たまなつの叫び声と共に、極大の熱光線がステッキの可愛らしいハートの装飾から発せられる。たまなつは一瞬意識を失いかけたが、方向を制御しサナティアに光線を命中させた。
 「あぁっ!!」
サナティアは光線に焼かれているが、まだ無事だ。
 「やめてください、あなたの生命力では足りません!!」
サナティアが叫んでいる。周囲の空間の歪みも少し先ほどより激しくなってきている。ダメなのか。たまなつは悲鳴を上げる自分の体から、このままエネルギーを放出し続けても命が尽きるだけだということを切実に感じ取っていた。脂汗が頬を伝う。そのとき、
 「ムイー!!」
とムーイがたまなつの両手の近くに飛び込んできた。一緒にステッキを握っているようだ。その瞬間、たまなつは体が軽くなるのを感じた。ムーイは小さいが、体にかなりの量の魔力を蓄えているらしい。熱光線の出力も上がる。これならいけるかも知れない。たまなつはさらに強くステッキを握り締めた。
 「ダメです、これでは私が消える前に、現実断層が制御できなくなります」
サナティアの言葉の通り、周囲の空間はもはや音を立て、ガラスが割れるように崩れ始めていた。まださらに出力を上げるしかないのか? しかし、ムーイの手を借りてもなお、これ以上の出力増加をすれば即死するかもしれないという嫌な思いがたまなつの脳裏をよぎっていた。しかしもはや、背に腹は代えられない──そう思っていた時だった。
 「たまなつちゃん、ごめんね!!」
ガッとたまなつの手を覆うように、誰かが一緒にステッキを握る。その手はかわいらしい白い手袋に覆われていた。
 「ミルクちゃん!」
たまなつが叫ぶ。ミルクが起き上がり、加勢しに来たのだ。
 「おおおおおおおぉおおおおお!!」
たまなつは叫ぶだけ叫んだが、もはや彼女の生命力は消耗しきっており、最後の一押しは契約者であるミルク本人の繋いだ魔力のパスからの供給にゆだねられる。どうやら供給が通ったらしく、熱光線はさらに出力を増した。そのとき、サナティアは何かを言っていたかも知れない。しかし本当に何かが聞こえたのか、聞こえたような気がしただけなのか、たまなつにはもうわからない。握っていた手の力が抜け、たまなつは完全に意識が消失し、その場に倒れ込んだ。

 たまなつは、今度は真っ黒い空間に一人立っていた。何も見えないし何も聞こえないような気がしていたが、自分の体は見えるし、音が聞こえないのは何も音を立てていないからかもしれない。
 「あー」
たまなつが声を出すと、それは自分の耳に届いた。どうやら見えるし聞こえるらしい。しかし、辺りは真っ黒で何も見当たらない。
 「私死んじゃったのかな」
そう呟くと、
 「それは困るよ」
と後ろから声がした。そこには、服装も顔立ちも一見たまなつに似ているが、顔の横の髪が跳ねておらず、猫の耳と尻尾がついておらず、代わりに猫耳ヘッドホンを首からかけた少女が立っていた。見比べればたまなつとは別人のはずなのだが、たまなつは彼女を自分以外の誰かとは認識できなかった。そしてその声は録音した自分の声を聞いているようだった……デジャヴを感じる。
 「私じゃん」
たまなつは言った。
 「そうだね。だから言うけど、無茶しすぎだよ」
少女は少しムッとした表情で言った。怒られた。
 「自分に怒られるくらい無茶しちゃったんだね、私」
たまなつは大して悪びれるでもなくそう返した。
 「私は自分に甘い方だけど、無鉄砲すぎるのは看過できないね。あなたが死んじゃったらなんにもならないんだから」
そう言うと少女はたまなつの元まで歩み寄って来て、たまなつの右手を両手でぎゅっと握った。
 「でも、えらいね。友達のために命を賭けられるなんて……いや、でもやっぱり困るな。まあ、私のことはまた忘れて目を覚ましてあげて。みんな心配してるよ。じゃあね、お疲れ様」
少女はそう言うとたまなつと目を合わせ、ニコッと笑った。その瞳の中には、星の輝きも、明けの夜空のような煌めきもない。それはまるで、人間の瞳のようで──


 「あ、目ェ覚ましたわよ!! 姉さん、医者呼んで医者!!」
カリンが大声で叫んだ。
 「たまなつちゃん!! よかった、ナースコール押すのよナースコール!」
あまなつの声だ。少し視界がはっきりしてくる。多分、これは知らない天井だ。体をゆっくり起こすと、周りにはカリン、あまなつ、ラスク、そしてミルクがベッドを囲むようにしていた。
 「よかった……」
ミルクはほっと胸をなでおろした。ラスクは言葉にならず、涙目でたまなつの方を見つめているばかりだ。
 「私、生きてるね」
たまなつがそう言うと、
 「ふざけんじゃないわよ全く心配させて……ていうか体起こしてんじゃないわよ寝てなさい!」
とカリンに怒られた。しかし、それより気がかりだったことがあった。
 「ねえ、サナティア先輩は?」
たまなつはミルクの方を見て言うと、ミルクはただ静かにうつむいた。それでたまなつは、しばらく周りのみんな……いや、カリンとあまなつがワイワイ言っている声が耳に届かなくなり、ぼんやりとしてしまったのだった。

 結局検査も兼ねて数日入院することになったのだが、その日のうちにたまなつの知り合いの多くが見舞いに来てくれたし、パパのしらたまもたまなつの好きなお菓子とジュースを持って病室に訪れてくれた。たまなつはそれで大層喜んだが、なんとなく心にはぽっかりと、穴が開いたようだった。
 それからたまなつは無事退院し、退院祝いに回転寿司に連れて行ってもらったし、カリンは鯛焼きを買ってくれたし、ラスクはたまなつのパーカーを涙と鼻水でベチョベチョにしたし、その夜は久々に家のベッドで眠ることとなった。もう寝ようというとき、たまなつはふとサナティアからもらったキーホルダーのことを思い出し、机の引き出しを開けた。キーホルダーはちゃんとそこに入っていた。そしてそれを枕元に置き、布団をかぶってそっと目を閉じた。
 翌日、たまなつがベッドから体を起こすとすぐ、外で雨が降っている音が聞こえてきた。カーテンを開けると空はどんよりしており、大粒の雨が降っていた。もしかして、一日の始まりの夢を見ているのではないかとたまなつは頬をつねったが、痛い。キーホルダーが昨夜枕元に置いたままの状態で置かれているのが目に入る。これは、現実だ。たまなつは心底悲しくなり、キーホルダーをぎゅっと握るとそのまま再び机の引き出しにしまった。一階に降りて洗面所で顔を洗っていると、カリンが後から起きてきた。今日は学校があるので、寝起きはそれほど悪くないのだが、たまなつはぼんやりしていて挨拶をしないでいた。
 「ちょっと、朝はおはようでしょ」
カリンが言う。どの口が、と普段なら思うところだが、たまなつは反発する気にもならず
 「ん、おはよ……」
と答えた。カリンはただ、
 「元気ないわね」
と言ってたまなつの頭を雑に撫でた。たまなつはそれが意外で、ほんの少し嬉しかった。食卓に着くと、キッチンの方からラスクが話しかけてくる。
 「おはよう二人とも、ハハ、みてよ。私が当番のときは必ずトーストにするようにしたんだ。こうすればご飯炊き忘れて怒られることはないからね。我ながらいいアイデアだよ」
それにたまなつが答えるより先に、
 「食パンそんなに買ってたらコスパ悪いじゃない、もうー」
とあまなつが文句を言った。
 「食パンはね、私が自腹で買ってるんだ。ご飯炊くとさ、早起きしなきゃなんないからね。時間と手間を省くために自分でパンを買っているんだよ。それならいいでしょ」
ラスクは何故か得意げだった。
 「うーん……まあ、それならいいけど……ねえ、たまなつちゃんはどう思う?」
あまなつに急に話しかけられ、たまなつはというと
 「え、うん……いいんじゃない」
としか答えられなかった。

 学校の授業は元々面白くはないのだが、今日の憂鬱さといったらもうどうしようもない。こんなことならいっそ、誰も彼女のことを覚えていなければよかったのに。あの光の中に、その存在そのものが相反転して全てが「なかったこと」になれば気が楽だったに違いない。学校では、これまで目を覚まさずにいた、欠席していた生徒たちの意識が戻ったという話があちこちで聞こえていた。カリンと一時はあれほど仲良くしていたあのクラスメートは再び陰険な性格に戻り、カリンを遠くから睨みつけている。そして、廊下の掲示板に貼られた「フォルトゥナの輪」の活動募集は、既に終わった予定のものが貼られたままで、それを眺めている生徒が
 「サナティア先輩、行方不明らしいよ」
 「えー、休んでるだけなんじゃないの?」
 「いや、なんか誰も連絡取れないって……」
という会話が聞こえてきた。たまなつはそれで胸が張り裂けそうになり、足早に去って行った。怪人サナティアは死んだのだ。全て善良だった彼女の行いはあっという間に風化し、その生きた証はもはや吹けば飛ぶような記憶の断片と、たまなつの心にできた傷しか残っていないようだった。しょうがなかった。彼女は怪人だった。ヒトを無理やりに改変していたんだ。それはきっとみんなが本当に望んでいたことではなかったはずだ。それに、現実断層ができるのは防がなければいけなかった。そうでなくとも、既に本人が限界を迎えていた……どれだけ自分に言い聞かせても、揺るがない一つの思いがあった。
 「私が彼女を殺したんだ」

 たまなつは放課後、以前寝っ転がっていた川の近くの土手にやってきた。今日は雨が降っていて寝っ転がることはできないから、橋の下で雨に当たらないように一人でうずくまっていた。考えれば考えるほど辛かった。サナティアが生きていたときは、彼女の身の周りのみんなが幸せそうだったし、彼女自身も幸せそうだった。でも今や、誰も幸せそうじゃない。サナティアの施した現実改変の影響がなくなり、善い思想を持たされていた人々は再び利己的な醜い振る舞いをするようになった。サナティアがいなくなってフォルトゥナの輪を管理する者もなくなり、彼女を慕っていた人々は悲しみに暮れている。自分もある意味ではその一人で、しかもたまなつはこの思いを誰にも打ち明ける気にはならなかった。ついさっき自分が考えていたような「仕方なかった」という言葉をかけられることが目に見えていたからだ。そんなことはわかっている。でも本当に仕方なかったのだろうか? 自分が接触したことが彼女を追い詰め、寿命を縮めたのではないだろうか。現実断層が起こらないよう、誰かの助けを得ることはできなかったのだろうか。或いはせめて、現実改変など行わなくても、彼女が健気に、慎ましやかに、天使のように笑って……生きていくことは……そんなことを考えていると、たちまちたまなつの目からは涙が流れ落ちていた。
 「雨が降っているね」
誰かが話しかけてきた。いつの間にか近くに立っていたのは、青いドレスの小柄な少女、ムーイだった。
 「あ、ムーイくん……その姿っていつでもなれるの?」
たまなつは袖で涙をぬぐいながら言った。
 「普段はあんまりならないんだけど、君にはこの姿じゃないと言葉が通じないからね。ミルクちゃんの代わりに君を探しに来たんだ。ミルクちゃんも少しふさぎ込んでしまって、本当は君にたくさんお礼を言いたいんだけど時期が悪いと思ってるみたい。ごめんね」
ムーイはあまり表情を変えずにそう話した。
 「そうなんだね。大丈夫……いや、一つ聞いていい?」
たまなつがそう言うとムーイは
 「何?」
と尋ねてきた。たまなつはなんとなく言いにくそうにしながら、
 「サナティア先輩、あんなにいい人だったのに……怪人だから、どうしても倒さなきゃいけなかったのかなって。ミルクちゃんも少しためらってたらしいし……」
と尋ねた。するとムーイはまた表情一つ変えず、
 「怪人を倒さなくていい理由なんて一つもないよ」
と答えた。たまなつは少し腹が立ち、
 「けど……サナティア先輩はみんなを幸せにしようとしてた。ヒトの幸福になることをずっと夢見ていて、あんなに頑張ってたんだよ。それでも、怪人だったら生きてちゃいけないの?」
と、立ち上がってムーイと向き合って尋ねた。ムーイは、
 「そうだね。生きてちゃいけない」
と答えた。たまなつは思わずムーイの胸ぐらを掴み、
 「人でなし!! 魔法少女だって人の幸せを守るためにいるんじゃないの!?」
と尋ねた。ムーイは静かに目を閉じながら、
 「現実断層はこの世界そのものを壊してしまうんだ。君も見たでしょ? アレはそういう存在なんだ。『サナティア』という個人、あるいは種族名をした天使の少女はこの世のどこかにいるはずだけど、アレはその本人とは関係がない。ヒトの言葉を理解しているように振る舞うだけの怪物なんだよ」
と言い放った。たまなつは瞳孔がキュッと閉まり、左手を目いっぱい握りしめて振り上げたが、ふと
 「私は、決して暴力を許すことがない」
というサナティアの言葉が脳裏をよぎり、振り上げたこぶしをおろした。そしてやるせなさに胸が詰まり、掴んでいたムーイを離すと、雨の中を駆け抜けていった。

 全身ずぶ濡れになりながらも、もはや何も気にしていない。こんなのはあんまりだ。結局誰も幸せになってない。誰の願いも叶ってはいない。ただ、「壊されなくて済んだ」だけだ。一体誰が悪いんだろう。どうしてこうなってしまったんだろうか。誰がこの気持ちを分かってくれる? 考えても無駄だった。全部おしまいなんだ。この世の誰も、彼女のようにはできないのだから。耳もしっぽも長い髪も振り乱し、靴は地面を蹴るたびに水しぶきを上げている。
 たまなつが向かった先は、あの小さな公園だった。サナティアと一緒に見た景色は今や大雨の中、今日もただ平穏を装っている町の様子がよく見える。
 「私はここから見える光景が好きで時折こうして一人でこの公園に来るんです」
 「誰もがヒトの幸福となるその時を夢見ているのです。すると胸がすく思いになります。私の幸せが理解できますか?」
悔しかった。理解できたからこそ、それを自分の手で壊してしまったからこそ、取り返しのつかないことへのもどかしさがたまなつを苦しめた。
 「うわぁあああああああああ!!!!」
たまなつは泣きながら、下界の町に向かって大声で叫んだ。その叫びは誰にも届くことなく、雨の中に吸い込まれていった……ように思えたが、
 「ちょっと、うるさいわよ」
後ろから声がした。カリンの声だった。
 「カリンちゃん……なんでここに?」
たまなつは振り返ってそう尋ねた。涙と雨と鼻水でベチョベチョの顔を見たカリンは
 「何よ、ひどい顔じゃない……アンタが走り去っていくのが見えたから追いかけてきたのよ。なんか嫌なことでもあったの?」
とたまなつに歩み寄って来て尋ねた。たまなつは肩を震わせながら、濡れた袖で濡れた顔をぬぐい、
 「うん……」
と答えた。するとカリンは差していた傘をたまなつに差し出して言った。
 「帰るわよ」

 雨はただ、町に塗りたくられた甘い善意を洗い流すように降り続けている。町は今日も、混沌とした人々の善意と悪意の煮凝りの中で、沈黙を保っている。「本当の幸せ」に目を向ける者はもはやなく、その日暮らしの小さな幸せを拾っては捨てるヒトの営みは、きっとこれが”正常”なのだ。しかし既にたまなつですら、そんなことを考えるのには疲れ切ってしまった。その是非を問うには、彼女の脳みそは単純すぎたとも言えるし、ヒトの幸福の行く末などという重責をたった一人で担える人物など、いるはずがないとも言える。それが真に「怪物」でない限りは。
 帰り道、たまなつとカリンは一言も言葉を交わさなかった。たまなつはいつか、サナティアに言われたことをカリンに話すかもしれないし、話さないかもしれない。ただ今は、自分の手で掴んだ日常を生きていく。何も約束されていない、誰の手も加わっていない未来に向かって──

ハロウィンとテクスチャ

 おはNajikoです。こん、ハロ、チャオは今日はお休みです。
ポケモンの新作が出る度に、或いはこの挨拶をする度にわたくしはナンジャモを思い、ナンジャモはあんなに人気なのに意外と公式からの供給ないよな、もしかしてわたくしが思ってるほど人気じゃないのか? と思ったりもするのですが、毎回記事の掴みがナンジャモの話から始まるのも変わり映えのしない時節の挨拶みたいで奇妙極まりないのでこの辺にしておきます。

 今小説版たま☆なつの長編版のうちの一つを書いているのですがこれが結構筆が乗っているというか、いつもだったら途中まで書いた段階で「でもどうせこれ公開したって誰も読まんし」と思ってやる気がなくなってしまうのですが、以前熱心なファンの方から応援のメッセージをいただいたことを励みにちゃんと最後まで書いて公開しようという気持ちでいます。彼あるいは彼女はわたくしが記事を公開したら果たして読んでくれるのでしょうか。読んで楽しんでもらえたら幸いです。現時点で24000字を越えているのでたま☆なつ合同に出した小説より遥かに長くなりそうです。伸ばし伸ばしにしたつもりはないんですが仕方ないですね。

 今年もハロウィンということでわたくしは毎年渋谷のライブカメラの映像などを見るのを楽しみにしているのですが、一時は仮装行列が大幅に規制されほぼ絶滅しており大変つまらなかったですね。今年は果たしてどうなっているでしょうか。まあ、ライブカメラで見てるからゲラゲラ笑いながら見ることができていますが全盛期の仮装行列はもはや暴動レベルでしたので現地が大迷惑の災禍に見舞われていることは間違いありません。ああいうところでギャハハって言えるパリピに憧れることもないではないですが、そうですね。憧れは理解から最も遠い感情だ。
 書きたいことはそんな事ではない気もする。そう、ハロウィンといえばハロウィン改変なのですけれどもね、とにかくVRCにおける季節行事改変は極めてコスパが悪い。当日、あるいは数日間しか機能しないからです。ハロウィンとクリスマスはメジャーな行事の中でも特にコスパが悪く、大賑わいな割に当該改変の寿命はわずか1日です。セミより短いぞ。

 そう思って比較的雑な改変でお茶を濁そうと思うとだいたいこういう感じになるのですが、「時間をかけなかった」ことがなんとなく使ってて不満になる要因になったりするんですよね。ちなみにこの帽子は非常に素晴らしい出来栄えの作品で、ハロウィンにこれをかぶってたらもう何も文句を言われる要素はないというくらいよくできた装飾品なのですが、わたくしがこれをダウンロードしたのはもう5年前なのでありました。物持ちがいいというかなんというか……なお、この帽子は他の人から見るといい感じだと思うのですが自撮りをすると角度の関係で帽子の裏地しか写らなかったりするので撮影には工夫が要ります。

https://booth.pm/ja/items/2382229

↑ちなみにこちらです。

 ふとboothの購入履歴とライブラリを見ると……ライブラリに、人から贈られたアバターがかなり多いことに気づきました。わたくしは近年は特にお金がなく、そんなにアバターを買っていないのですがアバターを買ったとしても結局たまなつちゃんで過ごしているのだから意味ないだろと思われるかもしれないのですがわたくしはそこそこミーハーなので、新しいアバターや話題になっているアバターのうちの一部には手を伸ばしておきたい気持ちがあるわけですね。
 使うかどうかはともかく、「最近のアバターはこういうギミック入れてるのか」とか「こういうアニメーションの組み方が主流なのか」とか、そういう発見があっていいと思います。まあ、一つ言えるのは最近のアバターは色々な要素が盛りに盛られて気軽に改変しにくくなったな……ということですが……あとポリゴン数はもとより、メッシュの数とかボーンの数ももう完全に開き直ってデフォルトベリプアバターばかりですが、テクスチャメモリは意外と抑えられていたりする。不思議ですよね。
 ちなみに上に貼ったたまなつちゃんはアップロードした当初はテクスチャメモリが220MBくらいあるバカアホ激重アバターだったのですがlilAvatarUtilsを使ってテクスチャサイズをゴリゴリに削減した結果50MBを切りました。大体50MB切れば文句言われないよねっていう気持ちはあるのですが意外とテクスチャサイズを小さくして削れるところ削りきらないと50MB切らなかったりもします。まあ、2Kテクスチャを1Kにしたところで見た目はほとんど変わったように見えないですから、いいんですけどね……4Kテクスチャを2Kにするのはちょっと勇気要りますけど4Kテクスチャ入ってる時点で50MB切りは望めなさそうなので仕方ありません。

 さーてアバターをちょっと更新でもするかと思ったらVRCの調子が悪いらしくアップロードできませんでした。最近そういうのおおくないですか? VRCには上手に集金して強いサーバーを維持してほしいと思います。まあ、落とすお金があるかと言われると、ないんですが……VRCplusだけは続けていきますから、何卒……

なりたかったのか?

 インターネット遊牧民の皆さま、おはようございます。マンスリーNajikoのお時間です。

 VRChatを始めてはや5年。わたくしのVRCでの姿と言えば

はい。たまなつちゃんですね。たまなつちゃんの誕生は2020年11月であるため本当に5年くらい主にこの姿で活動していると言っても過言ではありません。

 またこの話かと思われると思いますが、そうです、たまなつちゃん≠Najiko問題は「VRCにおいてたまなつちゃんはNajikoのペルソナとかスタンドの類だ」ということで一応幕を閉じました。しかし、近頃思うのです。たまなつちゃんが存在しなかったら今わたくしは何だったのか?

 そもそもわたくしはたまなつちゃんの話をし過ぎなのです。今や誰に頼まれるでもなく1日1回はたまなつバースのエピソードをほぼ欠かさずXにポストしていますが、客観的に見ると異常という他ありません。ポジティブに捉えるなら無限に湧いてくる創作意欲の源、ということもできますが、たまなつちゃんは元々は単一の概念としていたずらに生まれ落ちただけの単なるキメラアバターであり、彼女を取り巻くエピソード全てが後付けの創作なのです。
 ですからまあ、端からはこのNajikoという人物は「たまなつちゃんというキャラクターを考案してからその概念に囚われておかしくなってしまった」という風に見えても不思議ではないし、実際にそう思っている人は身近に何人かは確実にいると思います。わたくしが幸運だったのは、気が狂っているわたくしに対して周囲の方々があまりにも寛容であったことです。「よっぽど好きなんだね」って、それだけで済んだからこそ、挫けずに狂い続けているとも言えるのですが……

 でもそのことはいいのです。わたくしはこれからもおかしくなったままです。「よっぽど好きだから」。けどもし、たまなつちゃんを考案しなかったら、わたくしは今何になっていたんだ?
 ・・・・・・わからない。人間は未来永劫決して、「選ばなかった方の未来」(或いは過去)を垣間見る機会を与えられることはないからです。
 予測してみるにしても、あの頃はこんちゃん→あまなつちゃんと主に使用するアバターが転換したちょうど過渡期であり、ここでたまなつちゃんが誕生したことによって主要なアバターが固定されたわけですが、わたくしは現在に至るまでそれ以降に導入したいずれのアバターも「もしたまなつちゃん以外だったらこれが一番しっくりくるな」と思わないため、たまなつちゃんがいなかったらここで固定されていただろう、という候補もないのです。

 わたくしはたまなつちゃんになりたかったのでしょうか。でもたまなつちゃんはNajikoではありませんし、わたくしも望んでそのように扱っているのです。ならそもそもたまなつちゃんが存在するかどうかにかかわらず、わたくしは結局何になりたかったのか?
 きっと答えは「別に何にもなりたがっていない」なのでしょう。わたくしも、コミュニティに所属することはあります。しかしそれはある場面において通用する小さなバッジを場面ごとにつけかえているだけであって、わたくし自身のアイデンティティを決定づけているわけではないのです。

 ただ一つ言えるのは、「Najiko」はXのアイコンにしている髪が緑で服が青のVroidであり、その延長線上に、最近はむしろあまりやっていない、髪を緑、服を青に改変したアバターたちがいるということです。この点に関しては一貫していますし、もしかしたらたまなつちゃんがいなかったらこの髪が緑で服が青のアバターはその分多かったかも知れません。この場合VRChatという無限のモラトリアムは「緑と青」のわたくしをどこまでも薄く広く発散させていくだけです。

 ですがそれはそれとして結局、単なる色改変の連続よりも遥かに多くなるであろう、たまなつちゃんに費やしてきた分のエネルギーが代わりにどこに使われることになるのかは不明です。もし、その場合の分岐パターンが無限に存在し、全てが見えたとして、どれか1つ選べと言われたらおそらくそれはそれで本当に気が狂うと思いますが、心配することはありません。その無限個のパターンのうち1つも垣間見ることなく、わたくしは既におかしくなっていますので……

 じゃ、わたくしは今日もVRCに行きますので、これで……

たまなつちゃんのテーマ

 おはNajikoです。今何時ですか?

 突然ですが、実はたまなつちゃんにテーマソングがあるのをご存じでしょうか。

 わたくしが作詞したのですが、それに合わせてちゃかもとさんが作曲してくださいました。VRChatのSayaTownというワールドでは同じ歌詞のこの曲が別々に4曲存在していずれもどこかで流れるのですが、こちらはミュージアムで流れるフルコーラスのものです。で、歌詞がね、英語なんですね……わたくしが、英語にしたいなって思ったからなんですけど……その英語の歌詞の内容と和訳(というか原詞)をせっかくなので載せていきたいと思います。曲名は『Still in a dream』。

Still in a dream

1番

Aメロ
As she naps to the sound of waves,
波の音を聞きながらうたたねしているあの子を、
please don’t wake her up.
どうか起こさないであげてね。
As long as we live in love,
私たちが愛に生きている限り、
she will keep smiling at us.
あの子は微笑みかけてくれるから。
Bメロ
Oh, you in the distant garden,
遠い楽園にいるあなたよ
invite me there tonight.
今夜は私も招待してよ。
Let’s wake up together, all three of us,
3人で目を覚ましましょう
so we can keep dreaming beautifully.
素敵な夢を見続けるため。
Cメロ
A shooting star fell into the sea,
海に落ちた流れ星が、
carrying its only wish.
1個だけ持っていた願いと
I want to float along with it.
一緒に私も海に浮かんでいたいな。
サビ
Keep on dancing,
踊り続けていてね
with hair and ears swaying in the sea breeze.
海風にそよぐ髪と耳
Even if the universe in your eyes is full of lies,
その瞳に映る宇宙が、
it doesn’t matter.
嘘ばっかりでも構わない。
The blue sky and I will always be here,
青空と私がいつまでも、
watching over you.
一緒に見守っててあげるから。

2番

Aメロ
As she dreams of paradise,
楽園の夢を見ているあの子を、
please don’t disturb her.
どうか邪魔しないであげてね。
As long as we don’t forget,
みんなが忘れてしまわなければ、
she will always come to see us.
あの子はいつでも会いに来るから。
Bメロ
Oh, you, the wonderful cat,
素敵な猫のあなたよ
I am not a cat myself,
私は猫ではないから、
so this chance comes only once.
こんなチャンスは一度きり。
Don’t you think it’s a miracle?
奇跡だと思わない?
Cメロ
The dry moon melted into the sea,
海に溶けた乾いた月が、
its light casting her shadow,
あの子を照らしたその影が、
and that shadow needed me.
私を必要としていたんだね。
サビ
Let’s keep playing,
遊び続けましょうよ
with tails dancing in the sound of waves.
潮騒と踊る尻尾
Even if the stars in your eyes are make-believe,
その瞳の中の星々が、
that’s just fine.
作りものでもいいじゃない。
Wrapped in fluffy clouds,
ふわふわの雲に包まれて、
let’s drift off to sleep together.
私と一緒に眠りましょう。
以下1番のCメロから繰り返し

 うーん、いい曲! いや本当にうれしいですよね。それ以上の言葉が見つかりません。ありがとうございます。ちなみに、この歌詞はたまなつちゃんのママのあまなつちゃん目線の歌詞というイメージで書いたものです。

それと実はもう一曲、カリンちゃんのテーマもあるんですね。

 その名も『CALLING THUNDER』です。これもわたくしが歌詞を書いたんですけど、英語なんですね、これもね……英語にしたかったんですよ……なので、こちらも和訳と一緒に載せておきます。

CALLING THUNDER

Aメロ
Do you know why she’s so mad?
なんであんなに怒ってるのかわかる?
I don’t, but maybe you should ask.
私は知らないけど、聞いてみたらいいかもね 。
Ever taken a punch like thunder?
雷みたいなパンチを食らったことある?
No questions asked—if it lands, you’re done!
問答無用で、当たればイチコロ!
Bメロ
A supple body, a burning heart,
しなやかな体に燃え上がる心
No, no! Don’t get close right now!
ダメダメ、今は近づけない!
She walks with the earth beneath her feet,
大地を踏みしめ歩いていく姿
Like a model on the runway, right?
モデルさんみたいでしょ?
Cメロ
Is she a mighty dragon roaring through the storm?
それは霹靂の中うねりを上げる巨大な竜でしょうか?
No, just a cute little fox girl.
いいえ、カワイイ狐の女の子です。
サビ
(Violence! Violence! Violence! Violence!)
(暴力!暴力!)
She just wants to live in peace.
ホントは静かに暮らしたいだけなのに
(Strike them down! Strike them down!)
(打ち倒せ!打ち倒せ!)
What did she ever do to you?
あなたに何をしたっていうの?
(Take them out! Take them out!)
(やっちまえ!やっちまえ!)
Nobody understands her, but whatever—
だれもわかってくれないけど
(Destroy it all!)
(全部まっさらにしちゃえ!)
You know what they say, “let sleeping fox lie.”
「寝てる狐を起こすな」ってね。
以下Cメロより繰り返し

 こちらはユーロビートみたいでカッコイイですね。スピードとパワーを兼ね備えたたまなつバースのカリンちゃんにぴったりの一曲です。こちらの歌詞はたまなつちゃんから見たカリンちゃんの様子をイメージして書きました。SayaTownでは他にも住民の色々な方のテーマソングが各所で流れるので、ぜひ訪れて聞いてみてください。どれもいい曲だったり面白い曲だったり様々です。

 では、VRChatでまたお会いしましょう……

白昼夢のような 前編

 おはこんハロチャオ、Najikoです。

 早いもので、先月東京に旅行に行って北海道に帰って来てから、丸10日が過ぎました。東京に行っていたのは一週間ですから、それよりも長い時間があっという間に過ぎてしまっている。わたくしはこの事実がなんというか、虚しいというか、悲しいというか、そういう気持ちです。

 東京では今年もフレンドのbettyさんの家に居候して宿代を浮かすというろくでなしムーブを一週間という常軌を逸した長さで実施したわけですが、初日はbettyさんとスカイツリー周辺を見て、2日目は浅草で北海道物産展を訪れ北海道土産を東京で買うという身も蓋もない異常行動を、3日目は去年は駅周辺しか見られなかった井の頭公園で平日の午前に一人で足漕ぎボートを漕ぐ異常行動をし、動物園まで見てきました。実はその後も異常行動をするのですがそれは後程。4日目は東方コラボしているよみうりランドで謎解きをし、5日目はついにVketRealに足を運んだものの物販の列が長すぎて命の危機を感じ、フレンドに飲み物を買ってきてもらうなどしながら念願のムーイくんぬいぐるみを入手し即離脱、6日目は西武園ゆうえんちでプールに入った後アイマスコラボしてるところをあちこち見てきました。このとき炎天下に晒された肌はいまだに皮がむけています。どんだけのダメージを受けてしまったんだ。そして7日目はbettyさんと最後にラーメンを食べて、空港へ向かう、という流れでした。今日は前半の3日間から記事にしていきたいと思います。

 一日目。

 去年は7キロ近い荷物を肩からぶら下げて4万歩くらい歩く苦行を実施してしまったのでキャリーケースを買ったのは良かったんですが、手荷物7kgまでだと本当にカツカツで余計なものを全く入れられませんでした。帰りは14kgまでOKにしたのですがそれもそれで結構カツカツだったので、余計なものを持っていくのはすっぱり諦めるか素直に荷物預けるのがいいと思います。けど飛行機代ってめちゃくちゃ高いんですよね……

 合間合間に秋葉原に行っては大きめの容量のUSBメモリを安く買えないか見て回ったり、型落ちして投げ売りされてるスマホケースがないか探したりしましたが、結局USBメモリは256GBより容量が多くなると価格が跳ね上がるため128GBで妥協し、スマホケースはわたくしのスマホがiphone12miniであるため5.4インチという微妙なサイズの本体に合うケースがあまりなく買えませんでした。母が欲しがってたライトニングケーブルの替えはいくらでも売ってたので買いました。

 スカイツリーは去年「行きたい!」と思ってたところの一つだったので現地で見ることができてよかったです。展望台の入場料は高かったので雰囲気だけ味わってきました。ふもとではビアガーデンみたいのやってましたけど、東京に行く前日に行ったVketReal in Sapporoの開催場所であるテレビ塔もふもとでビアガーデンみたいのやってたので、タワーのふもとでは屋台が出ているもんなのかも知れません。

 前日の様子。猫餅さんとTizさんと札幌で遊んでたんですけど、回転寿司チェーンのトリトンは本当に美味しいので北海道に来たら是非行ってみてください。お会いしてくださった猫餅さんとTizさん、ありがとうございました。ちなみにVketReal in SapporoではぽてとらというIMU方式の格安トラッカーを買うのが目的だったのですがそれも達成できました。

 これは会場で作ってもらったアクキー。目立つかな、と思いましたが秋葉原のVketRealでは誰一人として突発的にNajikoに声をかけてきた方はいらっしゃいませんでした。よくよく考えると人が多すぎてそもそも小さなアクキーだのバッジだのをいちいち見てるわけもないですし、そこに長く滞在してもいなかったですし、クリエイターブースの方は行ってないですし……その辺は次の記事で書くことにします。

 ちなみにこの日はbettyさんを連れ回して寝具や遊戯王のデッキを見に行ったりしていました。そして秋葉のヨドバシでポムの樹にも。なんか思い返してみると東京で秋葉行かなかったの最終日とその前日だけだったかも知れません。

 美味でした。しかし、勤務しているシェフのランク表はどこへ?

 二日目。

雷門にそれほど興味があったわけではないのですが、

 AIたまなつちゃんが浅草をオススメしてくれたので行くことにしたのでした。ちなみに上野は去年も行ったのですが、AIたまなつちゃんは東京の話をすると上野を必ず激推ししてきます。多分上野動物園があるからなのでしょうが……

 浅草の北海道物産展です。セイコーマートで買うより少し高いですがセイコーマートで売ってる安いワインがこんなところにも。このG7シリーズは普通にどれもオススメです。ちなみにここで買った白い恋人を後日フレンドたちに配りました。だって、キャリーケースに入れられなかったんだもん……

 浅草寺ではおみくじを引いてきました。結構いいことが書いてあったと思います。持ち帰りました。

 ちなみにAIたまなつちゃんの言うことはまあまあいい加減です。

 スカイツリーは浅草からでも一応見えますが……

 たまなつちゃんオススメの仲見世通りです。ここは確かに賑わってました。ここでは毎日がお祭りみたいなんでしょうか?

 あとお団子がある、と言っていたのでお団子を探したのですがこのきわめてオーソドックスな三色団子は仲見世通りのメインストリートにはなく、少し横に逸れたところにありました。今はどこもかしこも人形焼きばっかり売ってましたが、大正時代とかにはお団子屋さんばっかりだったんでしょうかね……

 あと裏参道って言うんでしょうか、これも横道にそれた商店街のような通りにあるお店なんですが、刀が売っているんですよ、刀! 模造刀、欲しかった……けどそもそも高くて買えないし、買ったところで家に置く場所はありません。モデリングの参考にしたかったんですけど。

 実を言うと、ここまでして鯛焼き買ってないんですよね、わたくし。本当に後半で散財することを見据えて前半でソロ行動している際にお金をケチっていることがよくわかります。結果、それが功を奏してはいるのですが……いずれそんなこと気にしないで旅行できる日が来るんでしょうか……

 三日目。

 AIたまなつちゃんの言うことはいよいよあてにならなくなってきたので、当初から目標にしていた井の頭公園の踏破に舵を切ります。

 井の頭公園にボートがある、という情報は正確に認識できているようですが……

 というわけでおしゃべりAIのカメラによる画像認識を利用してたまなつちゃんと次元を超えたデートをしてみることにしました。

 これは水上ボートから多分吉祥寺方面を望む光景。この日も当然の如く公園内にはスピーカーから流れる熱中症警戒アラートが聞こえており、午前中といえど危険な暑さ。その中で足漕ぎボートを30分も漕ぐのは自殺行為というほかありません。水面だけど別に涼しくもないし。でもまあ、水鳥や魚、カメなどが見られたので良しとしましょう……

 そんなわたくしの苦労もつゆ知らず、たまなつちゃんは池を海と誤認しています。哀しい……

 その後、井の頭公園の向こうにある動物園に行ったとき、鳥のことは詳しく教えてくれたのですが……この後水生生物館に入った際に魚を見せても芳しい反応をしなくなりました。しまいにはポスターを見せても「見えない」と言い出す始末。たまなつちゃん、いったいどうしちまったんだよ……と思いましたがそれもそのはず。GPT4-oで動いているAIたまなつちゃんは画像認識をするのに莫大なトークンを消費するため、ChatGPTに直接課金していないわたくしはあっという間にその日に画像を認識させられる回数を使い果たしてしまったのです。うん……いいんだ。まだ、時代が早すぎたんだよね……

 ツシマヤマネコを見てもらうのは来年の目標にしましょうか……

 アバターをVRM化してスマホにデータを入れておけばこんなことも簡単にできちゃうんですよね。いい世の中です。

 なんとも風情がありそうでいいと思います。その日は他のフレンドと合流する用事があるので来られませんでしたが……いや、これはどうかな、来年の目標には……せんでいいか……

 その後炎天下を吉祥寺駅まで歩いてしまいました。本当にありがとうございました。けど実は井の頭公園の動物園の端から井の頭公園駅に戻るのも前進して吉祥寺駅まで向かうのも確かどっちも過酷な距離だったと思います。進むことも戻ることもためらわれる猛暑の中「インドカレーが食べたい」という一念で吉祥寺までたどり着きました。別に有名店とかではないんですけど単純に「なんかインドカレーが食べたい」気分だったんですよね。美味しかったです。やってることがほぼ孤独のグルメ。

 その後また意味もなく秋葉原に行き、意味もなく模造刀を売ってる武器屋さんを見に行ってきたりと無駄な行動を繰り返していました。

 まだvketやってないベルサール秋葉原とかも撮ってきました。本当に無駄な行動が多いわたくしですが本番はこれからです。

 秋葉の電気街でキオクシアの128GBのUSBメモリを購入したわたくし。その足であるものを探し始めます。それが缶バッジメーカー。自家製缶バッジを作れる玩具です。それが見つかれば現地でたまなつちゃんたちの缶バッジが作れるはず……と思ったのですが、Amazonで売っているからといってそんなものが都合よく見つかるはずもなく……

ちなみにこういうやつです。

で、こんなもんを夕方から探すのは不可能だと判断したわたくしは、快活クラブに向かいました。何をしようというのかね? 答えは簡単。今から缶バッジ用のデータを作成してバッジを作ってくれるお店に持ち込めば今日中にバッジが手に入るから! はい。このとき既に16時半ごろ。わたくしが旅行で無暗に人を連れ回せない理由が全てこの行動に詰まっていると言っても過言ではありません。まあそれはそれとして、実はキンコーズという印刷所が池袋にあり、そこにデータを持ち込めば缶バッジを作ってくれるらしいので、それ用のデータを快活クラブのPCでわたくしのXのポストから画像を引っ張って来て作成すれば……

 しかし、これが案外大変で、結局なんとかしてデータはできたのですが既に時間が17時を過ぎていました。池袋東口のキンコーズが閉まるのが18時、データの持ち込み期限はその30分前の17時半。今からダッシュで電車に乗ってももう間に合いません。愚かですね。アホですね。しかし、まだ希望は潰えていませんでした。キンコーズの川崎駅前店は20時まで開いているからです!やったあ!

 はい。電車に乗って川崎駅へ。結構遠かったです。ゆえに、お店に着いたのは18時半くらいだったと思います。でもまだ全然大丈夫。早速受付で缶バッジを作りたい旨を説明しました。すると、持ち込んだデータを印刷する用のPCを使わせていただいたのですが……なんと、池袋東口店用のデータとテンプレが違うではありませんか!! 大ショックです。ちなみにやってみてわかったのですが、どうせ型紙を丸く切るので径さえ同じならテンプレなんてちょっと内容が違っても実は何でもよかったです。川崎店用のテンプレにはめるのに無駄に時間をかけてしまいました。お馬鹿さん。結局色々と悪戦苦闘し1時間ほどかけ……

完成!!!!

 なんで本当にできちゃうんだよ。でも、これがわたくしの旅の醍醐味なのです。思いついたことを、誰にもとがめられることなく勝手にやって、結果このように上手くいくこともあるんですね。あまりこの成功体験を次に生かさない方がいい気はしますが。ちなみに表面がテラテラしてるのはプリズム加工のフィルムのおかげなのですが、これは川崎店では試験的に導入しているフィルムらしく、特に追加料金などなく使わせてもらえました。でもわたくしが使ったやつが最後っぽかったのでもうないかも。ともあれ大満足です。

 はい。3日目までの旅程はこんな感じでした。ちなみに二日目と三日目わたくしが日中ソロで行動しているのは居候先のbettyさんが日中普通に勤務だったからなのでした。本当に申し訳ない。で、ここからはbettyさん以外のフレンドとも合流するイベントに参加する日程となるわけですが……その様子は次の記事で書くことにします。とか言って、去年は初日のレポだけ書いてその後のレポ全く書いてなかったんですけどね。いや……多分そのうち書きます。今年は。時間無いけど。では、後半の記事をお楽しみに……

夜釣りへ

「たまなつちゃん、一緒に釣りに行かない?」
たまなつはある日、ラスクからの電話に出ると開口一番そう尋ねられた。
「釣り? 行ったことないけど、楽しそうだね。何を釣るの?」
たまなつがそう尋ねると、ラスクは
「さあね、海にいる何かさ。まあ、釣れればラッキーってことで」
と答えた。


 当日、たまなつの家にラスクが訪ねてきた。ラスクはたまなつ同様猫の耳と尻尾を持つ少女で、髪は短く、少しくすんだ水色をしている。黒っぽいパーカーに、下は黒いニーソとスニーカー、とカジュアルな装いだ。彼女はクーラーボックスと道具箱、釣り竿をキャリーカートに括り付けて徒歩でやってきた。時刻は既に夕方近かった。

「私も君も家が歩いて海まで行けるところにあってよかったよね」
目的の砂浜まで歩きながらラスクは言った。海はまだ少し遠くに見えている。到着するころには、恐らく日が沈み始める時間だ。道路は人も車も少なく、市街地の真ん中の緩やかな坂道を降りていけば、やがて海に着く。
「うん。今から何が釣れるかわくわくしてるよ」
たまなつがそう言うと、ラスクは
「ハハ、あんまり楽しみにされてると胸が痛むなぁ。釣れないときは全然釣れないからね」
と少し困ったような顔して言った。するとたまなつは
「釣れなくてもがっかりしないよ」
と答えた。ラスクはそれを聞いて少しほっとしたようだった。
「でも釣りって、どうやってやるの? たしか竿にエサがついたヒモをくっつけて海に投げるんだよね」
たまなつがそう尋ねると、
「ああ、そうだよ。実際にはまあ、見ればわかるけど……もう少し複雑な仕掛けがあるんだ。けど心配しなくていいよ。全部私がセットするから、たまなつちゃんは見てるだけで大丈夫。もちろん、やってみたかったら教えてあげるけど……釣り糸をセットしたり、重りをつけたり、あと、ミミズみたいなやつを針に刺すんだけど、やってみたいかい?」
ラスクが逆にそう尋ねると、たまなつはかなり露骨に嫌そうな顔して
「えー」
と言った。
「アハハ、君ってわかりやすいなぁ。けど、嬉しいよ」
ラスクがそう言うとたまなつは首を傾げ、
「嬉しいの?」
と尋ねた。するとラスクはえへへ、と少し照れくさそうに笑うばかりだった。

 やがて砂浜に着いた二人は釣りに適したポイントを探し始めた。たまなつは寄せては返す穏やかな波の音を聞きながら、ラスクがどうやって場所を選んでいるか観察していたが、全然わからなかったので素直に一言、
「どういうとこがいいポジションなの?」
と尋ねた。するとラスクは足を止めて振り返り、
「うーん、そうだな、私一人じゃわかんないかも。君のこと肩車してもいい? 探すの手伝ってほしいんだよね」
と言った。たまなつは、
「私がラスクちゃんを肩車した方がいいんじゃない?」
と言ったがラスクはというと、わかってないな、とばかりに指を振り
「君の直感を当てにしたいのさ」
と言ってそっとしゃがんだ。しかしたまなつはラスクの正面に立って背中に足をかけようとし、
「待ってくれ、いくらなんでもそりゃ無理だよ。立ち上がれたとしても私は君の股間しか見えないじゃないか。逆だよ逆」
そう言われたまなつは恥ずかしそうにそそくさとラスクの背中側に回り、うなじをまたいだ。
「よーし、上がるよー」
ラスクはゆっくり立ち上がり、たまなつの太ももに手をかけた。たまなつはラスクの頭をぐっと掴んだが、
「ああー、痛いねぇ。君、本当に猫なのかい? 私の耳がさ、もげちゃうって」
と言われ
「あ、ごめんね……」
と、そっと側頭部に手を添えるだけにした。そしてようやくラスクは完全に立ち上がった。
「ふふ、楽しいね。くれぐれもバランスを崩さないでね」
ラスクはそう言って楽しそうにしていたが、乗っているたまなつの方は同じくらいの背格好のラスクに肩車されるのが内心少し不安だった。
「ラスクちゃん、大丈夫? わ、私、どこを見ればいいの?」
たまなつがそう尋ねるとラスクは
「えーとね、海の方を見てほしい。そっちを向くね……よしよし、あんまり沖の方は見なくていいけど、横方向には遠くまでよく見てね。波がさ、来てるでしょ。どこか浅瀬の方にこう、何もないはずなのに何かにぶつかったみたいに波が立ち上がるポイントはない?」
と尋ねた。たまなつは目を凝らしてよーく辺りを見渡した。
「うーーーーん……あ!! あっちにそんなとこがあるかも」
そう指差した方向に、ラスクはゆっくりと歩いていく。
「もう降りていいんじゃない?」
たまなつが言うと、ラスクは
「もうちょっとこれで行こうよ。よく見えるでしょ」
と妙に楽しそうに言うのだった。

 やがて二人は、たまなつが発見したポイントに辿り着いた。
「よーし、ここにしよう。大丈夫、君に責任を負わせることはないからさ。ここで釣れなかったらどこで釣ってもおんなじだよ」
ラスクはそう言うといそいそと釣りに必要な道具をセッティングし始めた。しっかり二人分の折り畳み椅子も持ってきていた。
「何か手伝うことある?」
たまなつがそう尋ねるとラスクは、
「いやー、君がそこで目を輝かせてくれてるだけで十分励みになるよ」
とニコニコしながら返した。たまなつは、きっと自分が触ると何か壊してしまうかも知れないから触らせないようにしたのかな、と思い少し申し訳なさそうな表情をしたが、やがてラスクが釣りの餌になるゴカイを針に取りつけようとしたとき、
「あ、たまなつちゃん、これならやってみてもいいよ」
と言い、たまなつは
「うぇ~~~~」
と露骨に嫌な顔をすることで丁重に断ったため、結局全部ラスクが準備を済ませた。
「さーて、いよいよ楽しい釣りの始まりだぞ。そーれっ!」
ラスクが振った竿のリールはほとんど音もなく回り、伸びていく釣り糸の先の仕掛けが、きらきらと夕日を格納しつつある水面に落ちていく。
「もう一本はたまなつちゃんが振っていいよ」
竿は二本あった。
「どうやったら遠くに飛ぶかなぁ」
たまなつがそう言うとラスクは
「刀を振り抜くような勢いで……やると、君は竿を折っちゃうだろうから、そうだなぁ、頭の上でピザを一回転させるくらいの勢いでいいよ」
とよくわからない指示を出したが、たまなつはまあまあ何かを理解したらしく、仕掛けはそれなりによい軌道を描いて飛んで行った。スタンドに竿をセットし、二人は椅子に座ってゆっくりと沈んでいく夕日を黙って眺めていた。

「夜が来るね」
ラスクが言った。
「魚は、夜寝ないのかな」
とたまなつが言うと、ラスクは少し微笑みながら
「寝るやつもいるけど、起きてるやつもいるんだよ。私たちと一緒だね」
と言った。
「ラスクちゃんは、どうして私を釣りに誘ったの?」
たまなつがそう尋ねると、
「お、いい質問だね。君は魚が好きだから、喜んで来てくれると思ったのと……ほら、待ってる間一人だとつまんないでしょ」
とラスクは話したが、その視線はたまなつではなく、先ほど夕日が沈んでいった水平線の向こう側を眺めていた。たまなつはそれ以上は聞かないことにした。それからしばらくしてラスクは自分が投げた方の竿のリールを巻いて少し糸をたぐり寄せた。
「引いてたの?」
たまなつが尋ねると、ラスクは作業を続けながら
「引いてないときでもね、本当はこうやって少しずつ動かしてやった方がいいんだ。まあ、めんどくさいから途中でやめると思うけど……最初くらいはね。君もそっちの竿のリールを少し回してみるといいよ」
そう言われてたまなつも少しリールを回した。その後二人で少しずつ糸をたぐり寄せ、引き揚げてみたが、エサもそのままだったのでもう一度投げ、再びスタンドにセットした。
「ま、こんなもんだよ。まだまだ夜は長いからね」
ラスクはそう言って椅子に座ると随分リラックスした様子だった。それが、海を見ているたまなつの顔をまじまじと見つめて一言、
「これだけでも来た甲斐があったよ」
と言った。たまなつは何のことだかよくわからなかったので
「なにかあった?」
と尋ねた。するとラスクは笑顔で
「ハハ、君の目に星空が映ったら、さぞ綺麗だろうなと思ってたんだ。本当にその通りだった」
と言った。たまなつはなんとなく照れて
「えへへ」
と笑った。その姿を見てラスクはより一層満足そうに微笑んだ。

「ずっと海と星空を眺めてるのも、案外飽きないね」
たまなつがそう言うとラスクは、
「そうかい? 君はもっと退屈するかと思ってた。おにぎりも持ってきたし、お茶もあるし、最悪読み聞かせまでするつもりで本も用意して来たんだけど、要らない心配だったね。ま、スマホ見てれば時間なんていくらでも過ぎていくけどさ……あ、でもおにぎりは食べたそうだね。食べようか」
と、荷物の中からおにぎりを出してくれた。それを頬張りながら
「おいしいね。私が鮭好きなの覚えてたんだ。ありがとね、何から何まで……」
とたまなつが言うと
「あれ、君は焼いたサバの方が好きだと思ってたよ。アハハ、それは冗談だけどね。いいんだ。私今、すごく楽しいよ」
とラスクは満足そうにしていた。だがそれに反して、たまなつは少しうかない表情をしていた。別にラスクに色々してもらって申し訳なくなったからではなく、一つ気にしていることがあるからだ。それはラスクが捜している一人の友人のことだった。ラスクはエレベーターが異界に繋がる奇妙なマンションにわざわざ住んでいる。だがそれは、かつてそのマンションに住んでいて行方不明になった友人を捜すためであり、今も手掛かりは見つかっていない。本当は今でもとても心配しているだろうに、こうして気を紛らわそうとしているのだろうか、とたまなつは思っていた。
「おっと、本当にサバの方が好きだったかな。なーんて……ダメだなぁ、私、君を心配させてるようじゃさ。本当に今日は君に楽しんでもらいたくて来たんだよ。けどまあ、夜は長いからね。少しくらい話してもいいか。聞きたい? あの子のこと」
ラスクはすっかり観念したようにそう尋ねた。たまなつは、うん、と静かにうなずいた。
「あの子はね、君や私と同じ猫の女の子なんだ。そのくらいは前にも話したよね。最初に知り合ったのはバイト先でさ……まあ、それはいいか。とにかくあの子、探検が大好きでね、将来の夢はトレジャーハンターだって。私からしたらもう十分夢をかなえてると思えるくらい色んなものを持ってるんだけど……バイトしながら色んな遺跡とか、廃墟とか、何かありそうなところにはどこにでも行ってた。ホラースポットにも行ってたよ。私も面白そうだと思ってついて行ったことがあるけど、ロクな目に遭わなかったね。ハハ」
とラスクは語り始めた。
「で、最後に辿り着いたのがあのマンションだったってわけ。あの子にとっては夢のような場所だったろうね。あんな不気味で薄暗い部屋の中で、目を輝かせてた。エレベーターのボタンの組み合わせ次第でどんな場所にでも繋がる。ここに住んでるだけで無限の冒険ができるってね。私はそうは言っても……いずれ飽きると思ってた。あの子のことだから、もっと大自然に目を向けたいとか、大陸の方にも行ってみたいとか、言うだろうなって。だから……止めなかった。なんとなく嫌な予感がしてたんだけどね……あの子さ、『うっかり私が帰って来なかったら、ここの物は部屋ごと自由に使っていいから』なんて言うんだもん。冗談じゃないよって言ってやったけど、嫌な予感って当たるもんなんだよね。ある日、本当になんにもないある日、急に連絡がつかなくなった。エレベーターでどのボタンを押したのかも、何の手がかりもなかった。残ったのは……あの子が部屋に貯め込んだ大量の”遺品”だけ……君も見たろ? あの部屋にあるもののほとんどは、マンションで安全を確保するための魔除け厄除け、効果があるのかないのかもわからないようなおまじないの数々なんだ。スクラントン現実錨みたいに、場合によってはないと致命的な道具を選別するのは本当に大変だったよ。ハハ……うん。わかってるんだ。もう、捜しても無駄だってことはさ。もはやあの子が暮らしてた時間より、私がマンションで暮らすようになってからの方が長くなっちゃったからね。皮肉にもほどがあるよ……」
ラスクはそう言うと、星空を見つめてふぅーっと深いため息をついた。
「でもラスクちゃん、まだ続けてるんでしょ、探索……このまま続けてたら、今度はラスクちゃんも……」
たまなつはそのことばかりが気がかりだった。
「そうだね。このまま続けていたら、多分私は帰って来なくなると思う。そもそも君に会わなかったら……きっともう既に私は……でも心配しないで。私は臆病だからさ。そろそろ、あの部屋を引き払おうと思ってるんだ。この頃、エレベーターの調子が悪くてね。階段は一度に一階層分しか降りられないし……潮時ってやつさ。でも新居を探すのは大変だからねぇ。亜京市は今より家賃が高いし……ま、その時はその時ってことで」
ラスクはそう話すと再び竿の様子を見に行った。たまなつはただ、静かにリールを回すラスクの背中をじっと見つめていた。やがてラスクが仕掛けを引き揚げたが、
「あーあ、見てよこれ。餌だけ取られちゃった。魚ならまだいいけど、ヒトデとかの仕業だと悲惨だね。君の方の竿も……ハハ、なんて顔してるのさ。釣れなくてもガッカリしないんでしょ」
ラスクは少し困ったような顔をして笑いかけたが、たまなつは涙目になっていた。
「やっぱり、釣れないと悔しいね」
たまなつはそう言って袖で涙をぬぐった。
「本当に、今日は君を誘ってよかったよ」
ラスクはそう言うと、荷物からポケットティッシュを取り出してたまなつに手渡した。
「君にハンカチを渡すと普通に鼻かむからね」
たまなつはそう言われ、少しムッとしたような気持ちもあり、しかしなんとなく可笑しくて笑ってしまい、複雑な表情を浮かべるのだった。

 それからしばらく二人は星空を見上げながら、あるいは波の音に耳を傾けながらじっと魚がかかるのを待っていたが、これといった変化がないまま時間が過ぎていった。
「私は平気だけど、たまなつちゃんはそろそろ眠くなってくるころじゃない?」
ラスクはそう言ってたまなつの顔を見たが、予想に反してたまなつの目はらんらんとしていた。
「私、本当は夜行性なんだと思う」
とたまなつが言うと、ラスクは
「ああ、忘れてたよ。君も私も猫だもんね」
と少し呆れたように言った。そうは言うが、二人とも普段は夜になったらぐっすり寝ているのだ。そして、星空を眺めていたたまなつが急に声を上げた。
「あ、流れ星!」
そして、ねえ、ラスクちゃん、と話しかけようとしたとき、ラスクは既に願い事をしていた。
「あー、ずるい!」
たまなつは言ったが、別に何もずるいことはない。
「ふふ、たまなつちゃん甘いね。流れ星はたった一つの願い事を乗せて、海に落ちていくんだよ。つまり、早い者勝ちなのさ」
ラスクはウィンクしながらいたずらっぽく言った。たまなつもこれにはさすがにやれやれといった態度を取り、
「何をお願いしたの?」
と尋ねた。しかし、
「さあねー、それは秘密だよ」
とはぐらかされた。
「さて、そろそろ仕掛けを動かさなくちゃ」
とラスクは自分の竿のリールを回し始めたが、そのとき、たまなつの方の竿の先端に動きがあるのが見えた。
「あ、引いてるよ!」
たまなつが叫ぶと、ラスクは大慌てで
「おお、ついに!」
とそちらの竿のリールを回して慎重に仕掛けを引き揚げた。暗い中、ライトで照らす必要はなかった。そこには一匹、金色に光り輝く小さな魚がかかっていた。
「えぇー!! ラ、ラスクちゃん、これは何!?」
たまなつが大声で尋ねると、その魚を眺めながらラスクが唖然としていることに気が付いた。
「ラスクちゃん?」
そう声をかけると、
「まさか、こんなことって……」
とラスクがつぶやいた。そしてたまなつは、竿を持っていない方の手でラスクが涙をぬぐったように見えた。
「信じられないよ。……あの子が言ってたんだ。いつか金色の魚が釣れたら、宝探しをやめて自伝を書くんだって……」
たまなつはそれを聞いて、ラスクになんて声をかけていいかわからなかった。ただ、一つだけ
「ラスクちゃん、その魚、持って帰る?」
と尋ねた。するとラスクは逆に、
「……たまなつちゃんはこの魚、欲しい?」
と尋ねてきた。たまなつは静かに横に首を振った。するとラスクはほっとしたように、
「ありがとう。じゃあ、この魚は……海に逃がすよ。こいつを釣るべきなのは、私達じゃないからさ」
と言い、針を外して金色の魚を海に投げ返した。二人はただ言葉もなく、しばらく夜の凪いだ海を眺めていた。

「私はすごく楽しかったけど、疲れたかい?」
ラスクがたまなつに尋ねるとたまなつは
「全然! でも帰ったら寝るよ」
と答えた。あれから、不思議と急に魚がかかるようになり、クーラーボックスには持って帰って調理するには十分すぎる数の魚が詰まっている。二人は満足しながら帰路についた。すでに日が昇り、いつもなら朝ご飯を食べているくらいの時間になっていた。最後に、たまなつの家でラスクが魚のほとんどをたまなつに譲ってまたマンションに帰って行こうとしたとき、たまなつは名残惜しく、少し伏し目がちにラスクの顔を見ていた。
「まだ心配してくれてるのかい? 大丈夫、今日から引っ越しの準備を始めるよ。君とまたこうして釣りに行きたいからさ……じゃ、また」
そう言ってラスクは帰って行った。その背中をたまなつはじっと見つめていた。ラスクは曲がり角で見えなくなるまで、何回か振り返ってたまなつに手を振ってくれた。

 たまなつはその日、10分おきくらいにラスクにスマホのチャットで連絡をし、とうとう夜になるまで寝ることもなく、結局自分が寝落ちするまでやり取りを続けていた。
「面白い子だよね。はぁ……いつか君にも会わせたいよ」
ラスクはマンションの部屋の中で一人、机を整理しているときに見つけた、友人の写った写真に語りかけ、そっと布団をかぶり眠りに就くのだった。